落第したい聖女候補が、恋を知るまでのお話
「聖女とは、精霊界と人間の世界を繋ぐ架け橋。それに相応しい者だけが、精霊王の一族と面会を許される。私は主こそが今代聖女に相応しいと思っています」
「……いや、おれは……がらじゃねぇよ。村に帰りたい」
「…………。分かりました。主がそう望むのであれば……。しかし、そうなれば今回の聖女選定も合格はゼロになるでしょう」
「……それって……」
精霊の加護がますます減る、って感じ?
聖女がいなくなってから作物が育たねぇとか、色々聞くしなぁ。
だからっておれが聖女って、無理だろ。
いや、っていうかさ。
「聖女の基準とか、条件なんなん? あるのか?」
「条件ですか?」
「そうそう」
精霊騎士を召喚したら『素質』がある、的な感じだろう。
でもそれだけじゃダメだから、こうして試験が行われる。
なら、その聖女の他の条件みたいなやつが分かれば、それをあの神官なり女官に伝えて……それを基準にして探してもらえばいいんじゃねぇか?
「……対話が可能である事、でしょうか」
「…………へ?」
それだけ?
思わず零れた質問に、ノワールは頷く。
対話、だけ?
「他にも『精霊騎士の能力を落とさず召喚出来るか』『精霊王の一族が気にいるかどうか』という条件もありますが、今のところ最も重要な事は対話が可能かどうかです。なにしろその対話が、昨今の……いえ、定期的に行われるこの聖女選定では困難になっている」
すっと、ノワールが見たのは、続けられる試験。
精霊騎士同士の戦い。
さっきノワールが倒した白い騎士を召喚した聖女候補は、父親の神官に詰め寄ってギャアギャアと泣き喚いている。
地団駄を踏んで、なんだかわがままを言っているようだ。
「…………」
あれを見てしまうと、説得力が、やばいな。
「もしかして、新しい聖女が全然決まらねーのって……」
「私を召喚したのは主が初めてですが、精霊界に戻ってきた騎士たちの話では『いつも同じ』と……そんな話しか聞きません」
「…………」
情報共有されとんのかい。
……つーか、なんでそんな簡単な事が出来なくなってんだ、教会は。
なんであんな奴らしか集めない?
おれがイレギュラーなのは、まあ、分かるけど。
「精霊もまた、人の祈りや魔力、想いの力で活力を得ます。なくてはならない、というほどのものではありませんが、あるに越した事はない。だが、ある一定期間を過ぎると人はいつも精霊を『便利な道具』として見るようになります。不思議なもので、時間が経つと必ずそういう人間が現れ、そういう人間だけになっていく。人間は寿命が短いので、入れ替わりが激しくて我々にはなぜそうなるのかが理解出来ない」
「……そう、なのか」
悪ぃけど平民のおれにもそれは分からん。
でも、それが現状なのか。
実際見ちゃったからなんとも言えんなー。
「じゃあ、聖女選定って……」
「言ってしまえば共に世界を支えていけるパートナー……友人として、十分に信頼のおける相手を探す事、ですね。その点で言えば、我が主はその才がある」
そう言って、ノワールはまたおれの前に跪く。
仮面で隠れた顔。
でも、それでも整っていると分かる。
どくん、と胸が激しく音を立てた。
なんだ、これ。痛い。……痛い? なんで?
「あ、あの」
「!」
声をかけてきたのはおれの担当女官。
困ったように、もじもじ立っている。
「な、なに?」
「試験が終わっているのでしたら、お戻りになりませんか? お風呂の準備をしますので……」
「…………」
見れば試験途中の奴らからめちゃくちゃ睨みつけられている。
他の騎士たちもかなり嫌々戦っているようだった。
というか、なんかやる気が感じられない戦いだな。
「……まあ、確かにここにいても仕方ないしな……。戻るか」
「御意」
頭を下げるノワール。
女官の言う通り、あとは部屋でのんびりしよう。
それにしても、早く村に戻りたい。
今日こそ戻れると思ったのになぁ。
「…………天気いいなぁ」
「はい」
精霊と共に歩んでいける相手ね。
聖女選定……まだ時間かかりそうだなぁ。