落第したい聖女候補が、恋を知るまでのお話
翌朝、あくびをしながら背を伸ばす。
ふぇー、高い布団ふかふかでマジよく眠れるわ~。
「聖女候補様、おはようございます……」
「ん?」
怯えたように入ってくる女官。
頭を下げて、食事の載ったトレイをテーブルに置く。
置いたら置いたでサッと入り口まで移動して、俯いて震えるのだから気分が悪い。
「食っていいの?」
「は、はい。もちろんでございます」
「…………」
手を合わせて、恵みを精霊に感謝する。
村の古い風習だが、おれはこれが結構嫌いではないのだ。
実際孤児のおれには食い物にありつける機会はまさに『幸運』だったから。
感謝すればまた、飯にありつける。
村長はめちゃくちゃありがたがるとすげー調子乗るからな~。
「……あのさー、用がないならそこにいなくていいんだけど?」
あんな震えられてちゃ、美味い飯も味がしなくなる。
そう思って声をかけたがやはりふるふるしながら「いいえ」と首を振られた。
「お、お食事が終わりましたら、試験のご説明を……」
「あ、そうなんだ」
マジでおれなんかに試験受けさせる気かよ、狂ってるわ。
ま、なんにしても向こうもさっさとおれには落ちて帰って欲しいはずだ。
こっちも聖女なんざ願い下げ!
双方の利害は一致してるよなぁ。
「ごっそーさーん。……で?」
手を合わせて、空の皿をトレイに戻す。
女官は周りを一度確認してから、おれの方へと寄ってくる。
一体なににそんなに警戒しているんだか。
もしかしてノワールか?
精霊騎士って精霊だよな?
精霊を信仰する教会の女官なら普通ありがたがるんじゃねぇの?
なんでビビってんの?
「え、ええと、それでは……今後受けて頂く試験についてご説明を致します。聖女候補様は全員で二十人……この人数は聖女候補の試験をまとめて受けられる人数としては、最大数と言われていて……試験はこの人数が揃うまで行われません。今回は貴方様で二十人目……貴方様は、『二十番目』と呼ばれます」
「ふーん?」
名前では呼ばれず、番号で呼ばれるって言いたいのか?
まあ、別にいいけど。
……フィーネ、ね。
それが一時の仮の名という事か。
もしかしておれの名前を聞いてこなかったのも、どうせそれで呼ばれるからか?
「試験の内容は直前に担当神官より説明されます。大まかに五つの試験があるとされ、それに合格した者が『聖女の試練』に挑戦する権利を得られるといいます。どの試験も休日を挟んで一日以内に終わるそうなので、何事もなければ十日後に『聖女の試練』を受ける資格のある聖女候補様が選出される事となるでしょう」
「え? 待ってくれ。その、一回目の試験に落ちたら帰れるとかじゃねーの?」
「は、はい。基本的には精霊騎士がいる間は……残って頂く形になるかと思います。送還に関しては、私もよく存じ上げないので……神官様方にお聞き頂ければと思います……」
「…………」
つまりすぐには帰れねーのか。ちぇ~。
「そして、あの……でも……ここ三年間で聖女は決まらず、ずっと繰り返していまして……最近は休日が取り除かれ、連日の試験に、ともなっておりますので……その……以前よりは、早くお帰りになる事も出来るかと……」
「ふーん、そっか。分かった」
「では、その……最初の試験の場所へご案内します。……試験はすべて『精霊騎士』と同伴で受けてもらうのですが……」
「ノワールと? えっと、ノワール?」
部屋を見回し、名前を呼ぶ。
すると、どこからともなく黒い仮面と黒い鎧、黒いマントの漆黒の騎士が現れる。
その姿に女官は「ヒッ」と喉を引きつらせた。
あー、やっぱりノワールにビビってたのか。
「あ……っ、え、と、では、あの……ご、ご案内、します」
「あ、ああ」
完全に縮こまる女官。
一体ノワールのどこが怖いのだろう?
仮面つけてるから?
真っ黒だから?
鎧だから? ……でも騎士って鎧着てるもんじゃねーの?
「んじゃあ、まあ、行くか」
「はい、主」
さっさと帰るためにも、さっさと終わらせよーっと。