落第したい聖女候補が、恋を知るまでのお話
ビビった女官に案内された先はくそっ広い闘技場のような場所。
周りには観客席のようなものがあり、入り口は四方に四つずつ。
髭面のおっさん神官が、真ん中にめっちゃ並んでる。
そんで、そこには他の聖女候補とやらもめっちゃいた。
女官が言うには「聖女の試験用に作られた広間」なのだと言う。
……広間か? これ。
「……なによあれ、黒い精霊?」
「闇の精霊じゃない……」
「嘘でしょ、闇の精霊騎士?」
「闇の精霊騎士なんて存在したんですの?」
「なんて不吉な……」
ぴた、と停止する。
これ以上近づくな、という空気が候補たちからバリバリ放たれていたからだ。
なるほど、彼女らのひそひそ声……そして、他の候補たちが連れている精霊騎士はみんな青とか緑、黄色、たまに赤い鎧ばっかり。
二人ほど白い鎧の精霊騎士を伴っているが、黒はおれだけみたいだ。
「お前珍しいの?」
見上げて聞いてみる。
あと仮面つけてる奴もいねーなぁ?
「……人間界の常識は分かりかねます」
だ、そうだ。
まあ、それもそうだろう。
しかし、パッと見た限りどの精霊騎士もノワールほど上等な鎧は着けていない。
というか、鎧そのものをつけていない騎士も多い。
唯一ノワールと装備が近いのは赤い髪の候補が供にしている、赤い鎧の精霊騎士と、金髪のいかにもお貴族様な女が共にしている白い鎧の精霊騎士だろう。
若干、白い方が鎧に装飾が多くて剣も立派に見える。強そうだ。
しかしそいつも、マントも仮面も着けていない。
なんつーか、精霊騎士ってみんな綺麗な顔してるんだなぁ。
「揃ったようだな。では始めよう」
おれの後ろから、また赤い騎士を連れた女の子がやってくる。
隣に立って、笑顔でお辞儀されて、おお、と思った。
なんかここに来て初めてまともな人間に会った気がする。
偉そうな神官が説明を始めるみたいなので、自己紹介は後回しにしとこう。
おれは聞く気ねーけど、この子は真面目に聖女様目指すつもりみたいだし。
「まずは自分の召喚した精霊騎士と対話を成功させてもらう。召喚した精霊騎士は人間界で存在を維持するために聖女の魔力が必要不可欠。しかしながら、その命令をしっかり聞かぬようでは話にならん。制御し、使いこなせなければならない。まずは、跪かせて精霊騎士を服従させるのだ!」
ざわ、と場が戸惑う。
ぶっちゃけおれも戸惑った。
「…………。ん? どゆ事だ?」
めちゃくちゃ首を傾げるよ、それは。
おれ、バカだからよく分からねーんだが……。
「つまり、精霊騎士を跪かせればこの試験は合格、という事ですのね?」
赤い髪の候補が神官に質問する。
え? えー?
跪かせれば試験合格? はぁー?
「…………」
「って!」
その言葉に、ノワールが俺の後ろで膝をつき頭を下げる。
驚いて声を上げたせいで、前に集中していた候補たちが一斉にこちらを振り返った。
う、うげぇ!
「っ!」
「精霊騎士を跪かせてるわ……!」
「うそ、もう!?」
「ま、待って、あれって闇の精霊じゃない……! 闇の精霊が人間の言う事を聞くなんて……!」
「なんなの、あの子……気味が悪い!」
「せ、静粛に! 静粛に!」
えーと……んー?
なんか、ざわざわしてるけど……あれ、なんか神官が一人慌てて近づいてくる?
「き、君! 君は、えーと、番号! 番号を名乗りたまえ!」
「えーと、二十番目?」
「っ!? 分かった、フィーネだな。フィーネ、君は合格だ! もう部屋に戻りたまえ! 次の試験は明後日となる。明日一日休んで、明後日、この時間にまたここへ! 以上だ!」
「…………」
なんでそんなまくし立てるように……?
「主、戻りましょう」
「おう」
「!? しゃ、喋っ……!?」
ノワールが喋っただけで、またなんか後ろがざわついたな?
振り返るのもなんとなく面倒な気がして、ノワールの後についてその場をあとにする。
広場の入り口には女官がたくさん待機していて、その中の一人が泣きそうな顔のまま「お部屋に案内します」と言う。
なんか可哀想になって、それを断った。
道なりに戻れば帰れるしな。
他の女官もみんな怯えてる。
「お前ってなんか特別っぽかったな~」
「…………」
「……どうかしたのか?」
「……いえ……」
かつ、かつ、と先行くノワールは少し様子がおかしい。
でも、なんとなく理由は分かる気がした。
あの場にいた精霊騎士はみんな無表情。
いや、ノワールだって仮面をつけているから表情なんざ分からねえが……なんかこう、ノワールの無表情と一緒じゃない。全然違うんだ。
そう……生気がない……という感じだった。
それに、あの神官の言葉もなんとなくいけ好かねぇ。
制御しろだの、服従させろだの、命令を聞かせるだの……。
「早く帰りてぇな」
心の底から呟いた。