落第したい聖女候補が、恋を知るまでのお話
「二十番目様、フィーネさま……あの、あの、お、起きてください。試験の日ですよ、広場までお越しください……」
「んんん~……試験~……? なにするっつってたっけ?」
「い、行った先で説明があるかと」
「ふぅーん、分かったよ」
朝、女官に起こされてあくびをしながら上半身を起こす。
食事をもらい、身支度を手早く整えて部屋を出た。
気は進まねぇが仕方ねぇ。
さっさと帰るためにも、試験なんてとっとと終わらせてやろうぜ。
どうせおれみたいなのが精霊騎士を召喚出来たのもたまたまだろうしな。
「ご案内します……」
まだ怯えたような女官に案内されたのは一昨日と同じクッソ広い闘技場のような場所。
そこには聖女候補とその精霊騎士が控えていた。
あれ? なんか数が……いち、にい、さん……数えていくと聖女候補が十九人。減っている。
嘘だろ、一昨日のあの試験に落ちた奴いるの? マジ?
「早く来い! 田舎者の小娘が!」
「……!」
一番奥には偉そうででっぷりした神官。
おれたちを見るなり怒鳴りつけ、挙句鼻で笑いやがった。態度悪……。
「では第二の試験を始める。聖女に必要な、精霊の制御が出来ているか……それを見る!」
精霊の制御?
パッと見た限り、聖女候補たちの側に控える精霊騎士は大人しく従っているように見えるが……?
ノワールも従順だしなぁ。
騎士ってくらいだし、みんな真面目で従順なんじゃねぇのか?
「第二の試験! 精霊騎士を、あの円の中へ立たせよ!」
「…………」
なん、だ、そら?
「え、そんな事が試験なのか?」
「行って参ります」
「え? あ、うん」
よろしく、と手を振ってノワールを見送る。
だがノワールが神官の指差した円の中に向かう最中、おれが予想もしない出来事が起きた。
「さっさとお行き! わたくしの命令が聞けないの!」
「お前も早く行くのよ!」
「なにしてんのよグズグズしてんじゃないわよ!」
「「「…………」」」
え。
な、な、な、なな、ななななな……な、なに、あ、あれ。
せ、聖女……聖女? 候補とはいえ、口、悪くね?
自分よりでかい、精霊騎士を殴ったり蹴飛ばしてる奴までいるぞ?
「…………」
よく見ればどの精霊騎士も俯いて浮かない顔をしている。
自分が仕えているはずの聖女候補の顔を、みな見ようともしていない。
どうなってる?
なんなんだ、あれは。
どういう状況? これ。
「早くしなさい! 失格になっちゃうでしょ!」
「そうなったら、お前の故郷を呪ってやる!」
「…………」
騒ぐ聖女候補たちに、眉尻を下げた騎士たちが重い足取りで円の中へと歩いていく。
ノワールはすでに円の中央で待機。
結局、半分近い精霊騎士は聖女候補の指示を聞かずに立ち尽くしたままだった。
ちらりと神官を見るとなにやらすごい剣幕でおれを睨んでいる。な、なんでだよ。おれ睨まれるような事した覚えねぇぞ。
「ぐぎぎぎぎ……。……それまで! これにて第二の試験は終了だ!」
嘘だろ。
半分も減ったぞ。こんな試験で!
しかも、円の中に精霊騎士を立たせるだけの……たったそれだけの事なのに!
「次の試験は明日、執り行う! この試験で精霊騎士を円の中に入れられなかった者は即刻立ち去れ!」
「え! お、お待ちください! 女官の話では、精霊騎士を送還するまでは残されると……」
「問題ない! 落ちた者はこのあとすぐに送還を行ってもらう! おい!」
「はい。落第した方はこちらへ」
「「「…………」」」
候補たち……いや、元候補たちの顔が青ざめる。
ちょっと、乱暴が過ぎやしないか?
初日から今更だけど、教会ってこんなに不親切なばしょなんだなぁ……。
「ん」
赤い騎士……やっぱり目立つな。
あの赤毛の子も精霊騎士と仲良さそう。あの子の騎士も、少しぼんやりとして生気が感じられないけれど……良かった、ちゃんとあの子も合格している。
少ししか言葉を交わしていないが、おれと同じ平民に見えるから頑張って欲しいな。
「そこの田舎者! お前はさっさと戻れ! 目障りだ!」
「……はいはーい」
いや、ほんとおれも早く帰りたい。マジで!