ペーパーハットはまだ夢見てる
解けない呪い


大学のロビーで友達とまったりしていると、急な邪魔が入った。


「ごめん、用ができたから帰るね」

「えー、なに。とうとう彼氏になった?」

「ちーがーう。残念ながら、いつもの。またね!」


背を向けると「おつかれさまぁ」と気の抜けた声がして、苦笑する。そう、いつものだからね。お疲れ様、あたし。

たまにある、幼なじみからの都合のいい呼び出しだ。


【飲み会誘われたけど、帰りたいからこっちまで迎えに来て】


嫌だわ、ばーか。飲み会くらい自分で断れ。思いつつ、返事は決まってる。

了解と送信。

何だかんだとこれに喜んじゃっているから、あたしはいつまでも次の恋ができないんだろうな。高校生の頃から成長しない。


『もうお前ら付き合えば?』


高校生の頃、ふざけて言われた言葉に、仁科(にしな)はマジ顔で『そういうのはやめろよ』と言った。


『……ほんと、そうだよ。ありえないから』


察したあたしも仁科に合わせて、無事に失恋確定。あたしだけが、仁科を好きだった。

いまだにどっかでひっくり返せないかと夢見ている。怖いから告白はしてないけど。


先にトイレに寄って、念入りにメイクを直す。仁科がたとえ気づかなくても気合を入れる。

それからこの間、一緒に映画を見に行ったとき、仁科が買ってくれたお気に入りの麦わら帽子をかぶる。

似合いそうだと思ったから俺が買う、と誕生日でもないのに買ってくれたから嬉しくて。

完全に都合良く使われてる感は否めなくても、対価はもらっているから仕方ない。

いつ連絡が来てもいいように持ち歩いていたものの、今週はなかなか出番がなかった。

さすがに大学構内でかぶっていては目立つし、外を歩くときだけにしてる。でも、仁科と会うときは特別だ。

今の時期だけでも、遠くからだって、仁科がこれを目印にすぐあたしを見つけられるように。……なんてね。


つーか、暑いな今日!?

同じ大学なのに無駄に広い敷地を恨めしく思いながら、仁科の元へ急いだ。

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