ペーパーハットはまだ夢見てる
「さっきの子にちゃんと謝っておいてよ」
「わかってる。けど、最近しつこいから、あれくらいでちょうどいいよ」
イカの一夜干しをつつきながら、小さくため息をついた。しつこいのを何とかするのにあたしを使わないでほしい。
異性の幼なじみってのは、昔から安心されたり敵視されたり大変なんだから。
「あ、俺、玉子焼きも頼んでいい?」
「はいはい。いいよー。あたしタコの唐揚げも食べたい」
飲み会を断ったにも関わらず、やって来たのは居酒屋。
仁科もあたしも、お酒は嗜む程度で居酒屋のご飯が結構好き。
だから、こうやってふたりで飲むのは実に都合が良いというわけだ。
「おっけー。頼んだ」
「ありがとう。で、しつこい彼女とはどうなの?」
「彼女じゃねぇわ。好みのタイプでもねぇし」
「あはっ、ひどーい」
レモンサワーで喉を潤して、息を吐く。ひどいと言いつつ、わざわざ確認して安心しているあたしの方がひどい。
「かわいい幼なじみと一緒のが楽しくていーわ」
もぐもぐ、美味しそうにサラダを頬張る仁科。
そりゃ良かったね。急に視界が滲んできて、とっさに机に伏せる。涙で濡れる目元を拭った。
うわ、もう酔ったのかな。最初から珍しく飲みすぎた。
「……幼なじみって呪いみたい」
ぼそっと、聞こえなくても聞こえてもいいくらいの大きさで呟く。
何でもかんでも、幼なじみだからで片付けられるわけないじゃん。
過保護な幼なじみでしかないんだ、あたしは。敵視されようがされまいが、幼なじみ。そこから出られない。
あたしは、ちゃんと好きなのに。幼なじみでなくなったら、何になれると言うんだろう。
きっと、あのタイプでないきゅるん女子にだって敵わないに決まってる。