■王とメイドの切ない恋物語■
「誰だよ!」


男は、不機嫌そうに振り向いた。


「この子は、うちの大事なメイドだから、やめてくれるかな?」


そこに立っていたのは、トーマ様だった。

「あぁ、トーマじゃねーか!」

男はトーマ様を見て、笑顔を見せた。

私が、キョトンとしてると、

「この男は、ブルーム国の王子、サーバスだよ。ちょっと酒癖が悪くてな。普段は、いいやつなんだが」

そう言いながら、トーマ様は困ったようにサーバスを見つめた。

トーマ様、私を助けに来てくれたんだ。

たとえ偶然だったにしても、すごくうれしかった。


サーバスも、一応大切な、お客様だから、今ここで、助けてくれてありがとうございます、なんてトーマ様に言ったら角がたつだろうか?

サーバスがいなくなったら、後でお礼を言いに行こう。


そんなことを考えていると、


サーバスが、もう一口酒を飲み、

「そうか、そうか。この人が、お前の大切な人かぁ。あんなに女に興味なかったお前にも、そういう人ができたんだな。そりゃー、俺も手を出すわけにいかんな」

と、ヘラヘラ笑っている。


ちょっと、まてーい!違うぞ、サーバス!

トーマ様は、私のこと大切なメイドって、言ったんだよーーー


どうやら酒の飲み過ぎで、私のことを勝手に、トーマ様の恋人かなんかと、勘違いしてるみたいだった。


否定しなくちゃ。


私が口を開きかけると、トーマ様は私に目配せをしてきて、

「ああ、そうだサーバス。私の大切な子なんだから、絶対手を出すなよ」


そう言いながら、私の手をとり、その場から連れ去った。


サーバスは

「お幸せにな~~」

とか、なにやら、わけのわからないことを言いながら、フラフラ人混みに消えていった。


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