■王とメイドの切ない恋物語■
もう手はつないでないけど、まだ右手が温かい。


私が、落ち着くまでと思っているのか、トーマ様は、まだ私の頭を優しくなでてくれている。


落ち着くどころか、どんどん心臓の音は早くなる。


「私を助けるために、恋人のふりまでしていただいて、本当にありがとうございました」

私は深々とお辞儀した。

「いつでも助けるさ。何かあったら、いつでも頼っておいで」

そう笑ってくれた。

「はい」

私は顔を赤らめ、小さく頷いた。

彼は、本当に私の王子様だ。




「もう大丈夫?」

トーマ様が心配そうに、私を覗き込む。

綺麗な瞳で見つめられ、どうしていいかわからなくなってしまう。


トーマ様、近いです。

私は、ますます赤くなった。

「はい、もう大丈夫です」

私は顔を上げた。



「そうか、よかった。では」

トーマ様はそう言うと、また会場内にもどっていった。

私も、仕事に戻ることにした。


私がその後、全然仕事に集中できなかったことは、言うまでもない。
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