■王とメイドの切ない恋物語■
「まず昨日、私はタイミングを見計らって、トーマ様をテラスに連れ出したわ…」

エリザベス姫は、詳細に思い出すかのように、語りだした。





「トーマ様、お呼び出しして申し訳ございません」


「いえ、どうしたんですか?」

ガーランド様は、優しく尋ねてくださる。


やっぱり、わたくしが選んだ人だわ。

わたくしは、ゆっくりトーマ様を見つめた。

告白は勇気のいるもの。

わたくしは緊張しながら、口を開いた。

「トーマ様、今まで色々な姫が、あなたをお慕いしたと聞きます。しかし、あなたは、その誰ともお付き合いにならなかった。それは何故ですか?」


トーマ様は少し考え込むと、わたくしを見つめて、こう言った。


「私が、誰とも付き合わないのは…」


「付き合わないのは?」




「昔から、心に決めた人がいるからです」

そう言った、トーマ様の目に嘘偽りはなかった。


「そうなんですね。・・・その方は、トーマ様の気持ちに気が付いているんですか?」


わたくしが、そう言うと、

トーマ様は、ふっと笑い、

「あの子は、わかってないでしょう。私の態度で気が付いてもいいはずなんですが。でも、まだ私の気持ちを、彼女に伝えるわけにはいかないんです」

「それは何故ですか?」

「私自身で決めていることがあるんです。それまでは、伝えないつもりです」



「そうなんですね、わたくしも、トーマ様の気持ちが実るよう、応援させていただきますわ」


わたくしは辛い気持ちを隠し、トーマ様に笑顔を向けた。


「ありがとう」


トーマ様は、少し微笑むと、空を見つめた。


わたくしは、ただ、その横顔を見つめるしか、出来なかった。

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