■王とメイドの切ない恋物語■
トーマ様だった。

久しぶりに聞く、愛しい人の声に、思わず顔がほころぶ。

トーマ様が、私の部屋を、わざわざ訪ねて来てくれたんだ。

すごくうれしい。

今すぐにでも、このドアを開けて顔が見たいよ。

でも、こんな格好じゃ、そういうわけにいかない。

ドアをはさんで、トーマ様がいる。

私は、そっと扉に寄り添った。

「トーマ様だったんですね。申し訳ございません。急いで準備して、うかがいますので」

「いや、わたしこそ悪かった。ゆっくりでいい。この後予定もないから、部屋で本でも読んでいるよ」

トーマ様の優しい声が、すぐそこで聞こえた。

トーマ様…
こんなに近くにいるのに…


「はい、かしこまりました」

私が、そう言うと、愛しい人の足音が、そっと遠ざかっていくのが聞こえた。

トーマ様…

私は扉を見つめた。

さぁ、早く準備しなくちゃ。


私は髪をタオルで拭きながら、クローゼットを開けた。

どの服にしよう?

普段なら、このままパジャマを着るところだけど、これからトーマ様と会うから、そういうわけにいかない。


私は、シンプルな白のワンピースを着ることにした。

やっぱ、少しでも、可愛く思われたいもん。

変な格好は、できないよ。



髪の毛も急いで乾かし、まとめた。

少しだけ化粧し、準備が整った。

私は早足に、トーマ様の部屋に向かった。
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