■王とメイドの切ない恋物語■
え…?ここでランチ?



私が戸惑っていたのがわかったのか、トーマ様は笑って、

「ここで食べるんじゃない。今から少し移動するぞ」

そう言い、馬を指差した。

そこには、エリザベス姫と乗馬していた時に乗っていた、真っ白で立派な馬が立っていた。


ええーっ 私、馬なんて乗れないんだけど。



私が更に困惑していると、トーマ様は身軽に馬にまたがった。

どうしよう、どうしよう。

馬に乗れないなんて、この期に及んで言ったら、トーマ様、気分悪くするかな?

トーマ様、私が馬に乗れないってこと、忘れちゃったのかな?

私がうつむいていると、

トーマ様が手を差し伸べてくれた。




え?

「リリアは馬に乗ったことないんだよな?この馬に一緒に乗ろう」

そう言って、トーマ様は私の手をとり、馬に引き上げてくれた。

「あっ ありがとうございます」


覚えててくれたんだー。

私は、すごくうれしくなった。

てっきり、別々の馬に乗るものだと思ってたからほっとした。

トーマ様が、すぐそこにいる。

うれしくてたまらないけど、めちゃくちゃ緊張するよ。

トーマ様は近いし、初めて馬に乗るし、体が緊張でガチガチになる。

私が緊張しているのが伝わったのか、トーマ様は、

「さぁ、リリア、リラックスして。ゆっくり走るから、心配するな。わたしに、しっかり、つかまっていなさい」

そう言って、優しい瞳で私を見つめてくれた。

私は真っ赤になり、小さくうなづくと、そっとトーマ様につかまった。

トーマ様は私が落ちないように、私のお腹の辺りを支えてくれている。


ドクン、ドクン

心臓の音が大きくなる。

こんなに密着するのは、屋上で抱き締められた以来だ。



トーマ様…私はこんなにドキドキしてるよ。

あなたがそばにいるだけで、こんなにも緊張して、うれしくて、ドキドキしちゃうんだよ。

ふと見上げると、大好きなトーマ様の顔が、すぐそこに見える。

真っ直ぐ前を見つめる、愛しい人の、きれいな瞳が、そこにあった。

あなたが、その優しい瞳で見つめたい人は、誰なんですか?




私じゃ…ダメなんですか?
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