■王とメイドの切ない恋物語■
入ってきたのは、チチリさんだった。

「返事が無かったから、倒れてるかと思って、心配したのよ。返事くらい…あっ」

トーマ様に、気が付いたみたいだ。

トーマ様は、まだ眠ったままだ。



チチリさんは、トーマ様を起こさないように、そっと近づいてきた。

「トーマ様、いつからいるの?」

小声で、聞いてきた。

「昨日の夜からだよ」



「やっぱり。廊下ですれ違う時に、大きめな声で、リリアが倒れたって、独り言を言ってみたのよ」

私は、少し笑った。

また、その手かぁー。

チチリさんが、トーマ様に伝えてくれたんだね。

ありがとう。


「トーマ様、それ聞いたとたん、私に一礼して走っていったから、絶対、リリアの所だと思ったのよね」

チチリさんは、トーマ様を見て微笑んだ。

そうだったんだ。

なんか、すごくうれしいよ。

「一晩中、付き添ってるなんて、リリア、あんた愛されてるわね」

チチリさんは、優しく微笑む。

私は、真っ赤になって、頷いた。

「幸せです」

「かーっ 言ってくれるじゃないの」

チチリさんは、自分のおでこを、ペチペチ叩いている。

「リリアが幸せだと、私も幸せだわ。あ、そうそう。マーヤさんが、今日1日休んで良いって言ってたから」

そう言いながら、朝食を手渡してくれた。

「わかった。ありがとね、チチリさん」

私がそう言うと、ちらっとトーマ様を見て、

「もう1人分、持ってくるわ」

と、笑うと、部屋を出ていった。



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