■王とメイドの切ない恋物語■
「急に、どうしたんだ?」

トーマ様は、歩きながら聞いてきた。

「だって、トーマ様が王様って、ばれそうだったから」

トーマ様は、不思議そうな顔をする。

「ばれたら、まずいのか?」

「だって…」

ちょっと、言うのが恥ずかしい。

「だって?」





「だって、トーマ様が王ってばれたら、2人でゆっくりできなくなると思って」

案の定、トーマ様は、目が点になっている。

「だって私の村、小さいでしょう?国の王様が来たってなったら、大騒ぎになって、きっと大歓迎パーティーが始まっちゃうよ。せっかくのデートだから、2人でいたかったの」

私は真っ赤になって、うつむく。

あー、恥ずかしい。

だから言いたくなかったのにさ。

恥ずかしさを隠すために、私はトーマ様の前を早足で歩いた。


トーマ様は、ふっと私の手を取り引き止めた。

そして、じーっと私の顔を覗き込んでくる。


「リリア、赤くなってる。可愛い。俺もリリアと2人でいたいと思ってるよ」

そう優しい声で、ささやいてくれた。

あー、もう何で、そんな嬉しいことばかり言うかな。

トーマ様のバカバカ。

私は1回、軽くトーマ様の腕に頭をくっつけ、そのまま手をつないで歩いた。


「あの思い出の丘に、いこっか」

「ああ」

私たちは、馬を丘のふもとにつないで、丘を上っていった。



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