■王とメイドの切ない恋物語■
「こっちに来るなっ!」

男は焦り、私の腕をつかんだまま、トーマ様の方に刃物を向ける。

「嫌!」




次の瞬間、

ドゴッ

背後で鈍い音がして、私を押さえ込んでいた、男が倒れこんだ。

持っていた刃物が転がる。



「痛ってぇ…」

え?

一瞬、何が起きたのか、わからない。

「リリア、逃げろ!」

エリックが叫ぶ。

どうやら、トーマ様が刃物を叩き落とし、エリックが後ろから、男に体当たりしたみたいだった。




私は我に返り、トーマ様の方に逃げた。

トーマ様は、私を抱きとめてくれた。

震えが止まらない私を、優しく支えてくれる。



エリックは、男を押さえ付け、叫んだ。

「誰か手伝ってくれ!」

エリックの声で、皆が、はっとし、動きだした。



男は、エリック達が、どこかへ連れていった。




「ありがとう。トーマ様、無理し過ぎだよ・・もう」

涙が止まらない。

「トーマ様に、もしものことがあったら、私…」

「泣くな。それは俺も同じ事だ。リリアが無事で、本当に良かった」

そう言って微笑むと、エリックを見送りながら、

「あいつには、また借りができたな」

トーマ様は、そう言って笑うと、がくっと、ひざをついた。



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