【短】太陽のため息
人混みの中にいれば、確かに自分は息をして、存在している人間だと感じることが出来るのに。


社内に入った途端、まるでスイッチを無理やりオフにされたような勢いで、俺の全ては色褪せる。


「ふぅ…」


俺はそうやって一息間を作ってから、自分をデスクに引き寄せ、言われた通りの仕事をすべく、少し型の古いパソコンに向かった。


そして、そこからどれくらい経ったのか。
気付けば、周りは昼休みに入っていて、俺はフロアにぽつん、と残されている。


書類作成はほぼ終わり、デスクから少し離れると猫背になっていた姿勢を正して、ドライアイ気味の両目をぎゅっと瞑った。


頭痛が、する。
"何か"をしなければならないと、気が焦るばかりで"何も"進まないこの状況にも、行動を起こそうとしてすぐに諦めてしまう自分にも。


そこで…ふと思う。

今朝出逢った橋下彩里という少女は、どうして自分なんかともう一度逢いたいだなんて言ったんだろうか…?


年上が珍しかった?
それとも?
こんな、地味な風貌をした俺を憐れんだのか…?

と、そこまで考えて、いかんいかんと首を横に振る。

こういう、汚い大人の世界に浸り過ぎた斜めの負の感情が、俺の駄目な所に拍車をかけるんだろう…。


あんなに、真っ直ぐで凛とした…純粋な瞳を俺は見たことがない。


だから、信じてみたかった。









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