【短】太陽のため息
ガヤガヤとした喧騒に紛れ込んで、深呼吸を一つ。
エアコンがガンガンに聞いていたオフィスにいたせいか、太陽の熱がやけに温く感じた。
と、そこにざらり、とした風が吹き抜ける。
俺はぐっとそれを、堪えて歩みを進めた。
むわっとする夏の匂い。
アスファルトの焼ける匂いと、ごった返す人々の匂い。
そしてそこかしこから溢れ出す飲食店の料理の香りが、全てが織り混ざり、クラクラと目眩を起こしてしまいそうだった。
「いつから、こんなに夏が嫌いになったんだか」
子供の頃は、あんなにも夏が来るのが待ち遠しくて、はしゃいでいたというのに…。
人間、大人になると全てが負に傾き掛けてしまうのかもしれない…。
午後からの会議に出す書類を午前中の内に片付けてしまった俺は、少しのんびりしようと、行き付けのカフェに入る。
カフェとは言っても、ここは本格的な純喫茶で、深煎りのコーヒーと、昔ながらのナポリタンが、絶品の静かな店だった。