【短】太陽のため息
そこで、いつもの俺ならば「それはちょっと…」と一歩線を引いてしまうのに。
つい…彼女の瞳に吸い込まれるまま、自分の名を告げていた。
なんだろう?
この胸がザワザワする感じは?
こういう感覚は遠く昔に置いてきてしまったはず。
だから、とても気恥ずかしくてもどかしい。
けれど、いつまでもこんな当惑した表情を見せてしまっていたら、彼女もさぞかしがっかりするだろう。
なのに、目の前にいる彼女は変わることなく微笑んだままだ。
俺は、ごくり、とつばを飲み込んで、一旦喉元を潤してから口を開く。
「松木忠志…です。でも、大したことはしてないしね、本当に気にしないで。じゃあバスもそろそろ来る頃だろうし、気を付けて。変なヤツに絡まれたりしたら、ちゃんと周りに助けを求めるんだよ?」
そこだけ、強く念を押す。
そんなに何度もないとは思うけれど、彼女レベルの子なら、もしかするとそこかしこから変な輩がついてきそうだったから…。