ゆめゆあ~大嫌いな私の世界戦争~
私の世界戦争4
10
数日後。
どんよりとした空模様にはきっと誰かの願いが詰まってる。
いつもみたいに私たち三人は秘密基地に集合した。
集合の号令を出したのは百合ちゃんだった。
集合したのは二週間ぶりだった。
話の内容は大体予想できた。
「ゆゆちゃん……、今日集まってもらったのは何の話しをするためか、わかってますよね?」
険しい顔。
声が刺々しい。
「ん? なんだろ」
私はとぼけた顔をする。
大体、予想はついているが。
「何だろうなぁ」
メルが興味なさそうに言う。
無表情な奴だけど最近は感情が透けて見える。
「王川中学校テロ事件」
最近、テレビで話題のニュース。
王川中で続いた破壊行為。体育倉庫へガソリンを積んだ車が激突し、炎上。一週間後には二年生の教室が人為的と思われる方法によって破壊されていた。
それだけではない。
王川中三年生を狙った暴行事件。被害者は二十名以上に登り、中には入院した生徒も居る。夜道や下校など一人になったタイミングを狙われ、黒ずくめの格好をした人物に暴行を受ける。
これらの事件は関連性が強く、同一犯によるものとして警察の捜査が続いている。
犯人は学校に恨みを持つ人物の可能性が高いが、単独犯で実行するには難しい規模でもあり、組織的な犯行の可能性も示唆されている。
「最近、テレビで話題ですよね? ゆゆちゃん」
優しげに話すが目は笑っていない。
私は視線をそらす。
「犯人は背が小さいそうです。声色から恐らく子供、もしくは女性と推定されているそうですね」
ローズマリーのコスチュームは黒一色。顔はサングラスで隠し、マスクもつけているが、声は隠せていない。また、マントを羽織っているので体型は隠せるが、背丈はごまかせない。
「何か、言うことありますか?」
「いや、特にないよ」
「犯人はゆゆちゃんですよね?」
「ああ、そうだよ。私だよ。犯人は私。私がやったんだ」
隠す必要は特にない。
というよりバレないわけがないと思っていた。
だけど自分から話すつもりもなかった。
言ったらきっと否定されると思ったから。
活動は一人でやった。
二人に会ったのも二週間ぶり。
あんまり会いたくなかった。
「しかし学校テロ事件なんて言い方、やだよね。テロじゃないのにさ。ああ、でも、意図を持った破壊工作だからやっぱりテロでもいいのかな」
今のところ、警察の捜査は私の所へは来ていない。
ひきこもりだから?
友達もいないし。
校舎を破壊したりするのは無理だと思われているのだろうか。
非力だから暴行事件も不可能だ。
仮に疑われても証拠なんて何一つないけれど。
「何で……、こんなことしてるんですか」
「は? 何でって? 変わるためにきまってんじゃんか。いつも言ってるでしょ」
「こんなことして変われるって本気で思ってるんですか?」
「うん」
事件の影響で学校は一時休校。立ち入り禁止になり二十四時間体制で警備が敷かれている。
「私ね、ちょっとずつだけど変わってきたんだよ。外に出られるようになったしさ、学校とか商店街の方へも行けるようになった。前だったら恐くて近寄れなかったのにさ」
芥川結愛の家を燃やしたことは、王川中事件とは関連づけられていない。
ガス缶が爆発した事故だと思われている。
百合ちゃんも知らないみたいだ。
「だから復讐活動には意味があるんだ。自分を変える効果があるんだよ」
変わりたいと思う私を誰も止めることは出来ない。
たとえ百合ちゃんであっても。
「でも、今のままじゃまだ足りないんだ。私ね、芥川結愛に会ったんだよ。昔話したでしょ。私が一番嫌いな人。それでね、すっごい悪口言われてさ、何も言いかえせなかったんだ。情けなかったよ」
あそこで反撃できる自分になりたい。
そのためにローズマリーは絶対必要なんだ。
「だから芥川結愛の家を燃やした。消防車がすぐに来たから家族全員軽い火傷程度で済んだみたいだけどさ、スカッとしたよ」
芥川は悪。
散々、人を虐めてきたんだから燃やされて当然。
そしてそんな娘を育てた親も同罪。
一緒に燃やされてしまえばいいと思った。
「体育倉庫を燃やしたのも楽しかったよ。その時はメルも居たけどさ。その後、教室を破壊したりみんなをリンチしたりしてさ、何か生きているって感じがしたんだ。過去と戦ってるとね色んなことが浄化されていく気がするんだよね」
だけどまだ足りない。
もっともっと戦って、勝利を重ねなければいけない。
ローズマリーはスーパーヒーローだ。
誰も私には勝てない。
圧倒的な無敵感は爽快で気持ちがいい。
「あ、そうそう。お金も最近、たくさん手に入ったんだ。リンチした時にさ、スマホとかサイフとかを奪ってるんだ。おかげで欲しい物何でも買えるしさ、外に出るのが楽しくなったんだ。ひきこもりもそれで少し改善されたよ」
思わず笑顔になった。
自然と早口になる。
「これまでの人生のこと、百合ちゃんはよく知ってるよね? 私が苦しんでること。変わりたいって願ってること、百合ちゃんは何もかも知ってるじゃんか。なのに……、百合ちゃんがそれを否定するの?」
「違いますよ! ゆゆちゃんの気持ちは……、わかりますよ。でも……、あまりにもやり過ぎだって思いませんか?」
百合ちゃんの言ってる意味がよくわからない。
エンジェルトランペットは復讐クラブじゃないの?
復讐して何が悪い。
「思わない。むしろこんなんじゃ全然、足りないって思ってるよ」
「ゆゆちゃんもういいじゃないですか。変わらなくたって。私は今のままのゆゆちゃんでいいと思います。復讐なんてしなくていいですよ。ね? メルくんもそう思うでしょ?」
黙っているメルに視線を向ける。
メルは目線をそらしながら言う。
「あ、あぁ……、なんていうか、なんとも言えないというか」
「メルくん!」
「ま、まぁ、警察沙汰はやりすぎっていうか、捕まったりしたらヤバイしなぁとは思うけど……」
ハッキリしないメルの口調に少しイラだつ。
元々、一番過激なことを言ってたのはコイツなのに。
「体育倉庫を燃やした時は何も言わなかったの随分と弱気になったもんじゃんか、何? ビビってるの? 」
「ち、違う! けど……、ちょっとやりすぎかなとは思うわけだよ。さすがにさ」
「そうです! やりすぎです!」
「何だよ、二人してさぁ」
否定的な二人の空気に嫌気がさす。
私は何も間違っていない。
現に少しずつだけれど変わってきた。虐めのトラウマを解消するためにローズマリーの活動が有効なのは証明されている。
私はやめる気はない。
もっともっと復讐する。
そしてなりたい自分になる。
芥川たちに虐められる私を卒業するんだ。
「じゃあ、いいよ。もう。二人にはわかってもらえなくても」
悲しいけど仕方ない。
一人でやる。
ローズマリーの活動を始めてから二人に言わなかったのは、多分、こうなるってわかってたから。
どうせ私は元から一人。
一人には慣れている。
仲間なんていらないよ。
「一人でやるから。エンジェルトランペットも、もう解散だね」
結成して四ヶ月。
大した活動もできなかった。
二人は甘すぎる。
でもどうせ私の気持ちなんてわからない。
私の気持ちがわかるのは私だけだ。
「バイバイ、百合ちゃん。メル」
「ゆゆちゃん! 何でそんなこと言うんですか! 強がりもたいがいにして下さいよ!」
声を荒げる。
言っている意味がわからない。
「はぁ? 強がってないし。百合ちゃんの方こそ何でそ私のことをわかってくれないの? 私、何か間違ったことしてる?」
何も間違ってない。
私がしていることは凄く論理的だ。
感情的な百合ちゃんとは違う。
「私はただ変わりたいだけ。変わるためには過去を清算しなきゃいけない。だから復讐する。これの何が悪いの?」
「何もかもですよ」
「はぁ? 意味わかんない」
「だ・か・ら! そこまでして変わる必要なんかないって言ってるんですよ!」
それを決めるのは私だ。
百合ちゃんじゃない。
「そんなの百合ちゃんには関係ないでしょ!」
私の人生は私が決める。
なりたい自分も私が決める。
何でわかってくれないの?
「関係ありますよ! 大ありですよ!」
「ないよ! 私の人生に口出す権利なんて百合ちゃんにはない!」
「ありますよ!」
「はぁ? ない!」
「ある!」
段々と腹が立ってきた。
声が大きくなった。
「ない! 百合ちゃんには私の気持ちなんてわからない! わかるわけないんだ!」
百合ちゃんは虐められてる。
でも、私ほどじゃない。
不老川から突き落とされたり、体育倉庫に閉じ込められたりするわけじゃない。学年中から無視されているわけでもない。せいぜい、茅ケ崎ひかりたちのグループとその影響下にある人たちに虐められるだけだ。
家族とは仲がいい。
弟もいる。
私立の女子中に通い、ルックスもいい。
「私の苦しみは百合ちゃんなんかとは違うんだ!」
百合ちゃんは悲しそうな顔をした。
ちょっと言い過ぎたって思った。
だけど言い直すことはできなかった。
「百合ちゃんなんか……大嫌いだ!」
違う。
そんなこと言いたいわけじゃない。
「嫌い! 百合ちゃんなんか嫌い! 大嫌い!」
でも止まらなかった。
嫌いなのは百合ちゃんじゃなくて私だ。
私は私が大嫌い。
こんな自分が大嫌いだ。
「わかりましたよ。私もゆゆちゃんなんか大嫌いです!」
その言葉は重たかった。
ずしん、と心にのしかかる。
「行きましょ、メルくん。もうこんな人のことなんかどうだっていいです」
百合ちゃんは歩き出す。
「で、でもよ」
「行きますよ!」
「お、おう」
メルも後を追う。
待って。
行かないで。
違うんだ。
そうじゃないんだ。
でもその気持ちは言葉にならなかった。
「みんな嫌い……、だ」
一人残った秘密基地。
雨粒が一つ落ちた。
数日後。
どんよりとした空模様にはきっと誰かの願いが詰まってる。
いつもみたいに私たち三人は秘密基地に集合した。
集合の号令を出したのは百合ちゃんだった。
集合したのは二週間ぶりだった。
話の内容は大体予想できた。
「ゆゆちゃん……、今日集まってもらったのは何の話しをするためか、わかってますよね?」
険しい顔。
声が刺々しい。
「ん? なんだろ」
私はとぼけた顔をする。
大体、予想はついているが。
「何だろうなぁ」
メルが興味なさそうに言う。
無表情な奴だけど最近は感情が透けて見える。
「王川中学校テロ事件」
最近、テレビで話題のニュース。
王川中で続いた破壊行為。体育倉庫へガソリンを積んだ車が激突し、炎上。一週間後には二年生の教室が人為的と思われる方法によって破壊されていた。
それだけではない。
王川中三年生を狙った暴行事件。被害者は二十名以上に登り、中には入院した生徒も居る。夜道や下校など一人になったタイミングを狙われ、黒ずくめの格好をした人物に暴行を受ける。
これらの事件は関連性が強く、同一犯によるものとして警察の捜査が続いている。
犯人は学校に恨みを持つ人物の可能性が高いが、単独犯で実行するには難しい規模でもあり、組織的な犯行の可能性も示唆されている。
「最近、テレビで話題ですよね? ゆゆちゃん」
優しげに話すが目は笑っていない。
私は視線をそらす。
「犯人は背が小さいそうです。声色から恐らく子供、もしくは女性と推定されているそうですね」
ローズマリーのコスチュームは黒一色。顔はサングラスで隠し、マスクもつけているが、声は隠せていない。また、マントを羽織っているので体型は隠せるが、背丈はごまかせない。
「何か、言うことありますか?」
「いや、特にないよ」
「犯人はゆゆちゃんですよね?」
「ああ、そうだよ。私だよ。犯人は私。私がやったんだ」
隠す必要は特にない。
というよりバレないわけがないと思っていた。
だけど自分から話すつもりもなかった。
言ったらきっと否定されると思ったから。
活動は一人でやった。
二人に会ったのも二週間ぶり。
あんまり会いたくなかった。
「しかし学校テロ事件なんて言い方、やだよね。テロじゃないのにさ。ああ、でも、意図を持った破壊工作だからやっぱりテロでもいいのかな」
今のところ、警察の捜査は私の所へは来ていない。
ひきこもりだから?
友達もいないし。
校舎を破壊したりするのは無理だと思われているのだろうか。
非力だから暴行事件も不可能だ。
仮に疑われても証拠なんて何一つないけれど。
「何で……、こんなことしてるんですか」
「は? 何でって? 変わるためにきまってんじゃんか。いつも言ってるでしょ」
「こんなことして変われるって本気で思ってるんですか?」
「うん」
事件の影響で学校は一時休校。立ち入り禁止になり二十四時間体制で警備が敷かれている。
「私ね、ちょっとずつだけど変わってきたんだよ。外に出られるようになったしさ、学校とか商店街の方へも行けるようになった。前だったら恐くて近寄れなかったのにさ」
芥川結愛の家を燃やしたことは、王川中事件とは関連づけられていない。
ガス缶が爆発した事故だと思われている。
百合ちゃんも知らないみたいだ。
「だから復讐活動には意味があるんだ。自分を変える効果があるんだよ」
変わりたいと思う私を誰も止めることは出来ない。
たとえ百合ちゃんであっても。
「でも、今のままじゃまだ足りないんだ。私ね、芥川結愛に会ったんだよ。昔話したでしょ。私が一番嫌いな人。それでね、すっごい悪口言われてさ、何も言いかえせなかったんだ。情けなかったよ」
あそこで反撃できる自分になりたい。
そのためにローズマリーは絶対必要なんだ。
「だから芥川結愛の家を燃やした。消防車がすぐに来たから家族全員軽い火傷程度で済んだみたいだけどさ、スカッとしたよ」
芥川は悪。
散々、人を虐めてきたんだから燃やされて当然。
そしてそんな娘を育てた親も同罪。
一緒に燃やされてしまえばいいと思った。
「体育倉庫を燃やしたのも楽しかったよ。その時はメルも居たけどさ。その後、教室を破壊したりみんなをリンチしたりしてさ、何か生きているって感じがしたんだ。過去と戦ってるとね色んなことが浄化されていく気がするんだよね」
だけどまだ足りない。
もっともっと戦って、勝利を重ねなければいけない。
ローズマリーはスーパーヒーローだ。
誰も私には勝てない。
圧倒的な無敵感は爽快で気持ちがいい。
「あ、そうそう。お金も最近、たくさん手に入ったんだ。リンチした時にさ、スマホとかサイフとかを奪ってるんだ。おかげで欲しい物何でも買えるしさ、外に出るのが楽しくなったんだ。ひきこもりもそれで少し改善されたよ」
思わず笑顔になった。
自然と早口になる。
「これまでの人生のこと、百合ちゃんはよく知ってるよね? 私が苦しんでること。変わりたいって願ってること、百合ちゃんは何もかも知ってるじゃんか。なのに……、百合ちゃんがそれを否定するの?」
「違いますよ! ゆゆちゃんの気持ちは……、わかりますよ。でも……、あまりにもやり過ぎだって思いませんか?」
百合ちゃんの言ってる意味がよくわからない。
エンジェルトランペットは復讐クラブじゃないの?
復讐して何が悪い。
「思わない。むしろこんなんじゃ全然、足りないって思ってるよ」
「ゆゆちゃんもういいじゃないですか。変わらなくたって。私は今のままのゆゆちゃんでいいと思います。復讐なんてしなくていいですよ。ね? メルくんもそう思うでしょ?」
黙っているメルに視線を向ける。
メルは目線をそらしながら言う。
「あ、あぁ……、なんていうか、なんとも言えないというか」
「メルくん!」
「ま、まぁ、警察沙汰はやりすぎっていうか、捕まったりしたらヤバイしなぁとは思うけど……」
ハッキリしないメルの口調に少しイラだつ。
元々、一番過激なことを言ってたのはコイツなのに。
「体育倉庫を燃やした時は何も言わなかったの随分と弱気になったもんじゃんか、何? ビビってるの? 」
「ち、違う! けど……、ちょっとやりすぎかなとは思うわけだよ。さすがにさ」
「そうです! やりすぎです!」
「何だよ、二人してさぁ」
否定的な二人の空気に嫌気がさす。
私は何も間違っていない。
現に少しずつだけれど変わってきた。虐めのトラウマを解消するためにローズマリーの活動が有効なのは証明されている。
私はやめる気はない。
もっともっと復讐する。
そしてなりたい自分になる。
芥川たちに虐められる私を卒業するんだ。
「じゃあ、いいよ。もう。二人にはわかってもらえなくても」
悲しいけど仕方ない。
一人でやる。
ローズマリーの活動を始めてから二人に言わなかったのは、多分、こうなるってわかってたから。
どうせ私は元から一人。
一人には慣れている。
仲間なんていらないよ。
「一人でやるから。エンジェルトランペットも、もう解散だね」
結成して四ヶ月。
大した活動もできなかった。
二人は甘すぎる。
でもどうせ私の気持ちなんてわからない。
私の気持ちがわかるのは私だけだ。
「バイバイ、百合ちゃん。メル」
「ゆゆちゃん! 何でそんなこと言うんですか! 強がりもたいがいにして下さいよ!」
声を荒げる。
言っている意味がわからない。
「はぁ? 強がってないし。百合ちゃんの方こそ何でそ私のことをわかってくれないの? 私、何か間違ったことしてる?」
何も間違ってない。
私がしていることは凄く論理的だ。
感情的な百合ちゃんとは違う。
「私はただ変わりたいだけ。変わるためには過去を清算しなきゃいけない。だから復讐する。これの何が悪いの?」
「何もかもですよ」
「はぁ? 意味わかんない」
「だ・か・ら! そこまでして変わる必要なんかないって言ってるんですよ!」
それを決めるのは私だ。
百合ちゃんじゃない。
「そんなの百合ちゃんには関係ないでしょ!」
私の人生は私が決める。
なりたい自分も私が決める。
何でわかってくれないの?
「関係ありますよ! 大ありですよ!」
「ないよ! 私の人生に口出す権利なんて百合ちゃんにはない!」
「ありますよ!」
「はぁ? ない!」
「ある!」
段々と腹が立ってきた。
声が大きくなった。
「ない! 百合ちゃんには私の気持ちなんてわからない! わかるわけないんだ!」
百合ちゃんは虐められてる。
でも、私ほどじゃない。
不老川から突き落とされたり、体育倉庫に閉じ込められたりするわけじゃない。学年中から無視されているわけでもない。せいぜい、茅ケ崎ひかりたちのグループとその影響下にある人たちに虐められるだけだ。
家族とは仲がいい。
弟もいる。
私立の女子中に通い、ルックスもいい。
「私の苦しみは百合ちゃんなんかとは違うんだ!」
百合ちゃんは悲しそうな顔をした。
ちょっと言い過ぎたって思った。
だけど言い直すことはできなかった。
「百合ちゃんなんか……大嫌いだ!」
違う。
そんなこと言いたいわけじゃない。
「嫌い! 百合ちゃんなんか嫌い! 大嫌い!」
でも止まらなかった。
嫌いなのは百合ちゃんじゃなくて私だ。
私は私が大嫌い。
こんな自分が大嫌いだ。
「わかりましたよ。私もゆゆちゃんなんか大嫌いです!」
その言葉は重たかった。
ずしん、と心にのしかかる。
「行きましょ、メルくん。もうこんな人のことなんかどうだっていいです」
百合ちゃんは歩き出す。
「で、でもよ」
「行きますよ!」
「お、おう」
メルも後を追う。
待って。
行かないで。
違うんだ。
そうじゃないんだ。
でもその気持ちは言葉にならなかった。
「みんな嫌い……、だ」
一人残った秘密基地。
雨粒が一つ落ちた。