ゆめゆあ~大嫌いな私の世界戦争~
自殺する日
14
七月十三日。
雨があがった。
午前十一時。
昼のニュースで梅雨明けの話題をやっている。
「記録的被害を出した梅雨が明け、本格的に夏が来るでしょう。今日の降水確率は〇パーセント。今年初めての夏日です」
窓の外は目映い光。
私はテレビを切って靴を履いた。
これから約一年ぶりに登校するのだ。
ローファー。
制服。
中学生の格好。
着てみたら少しサイズが小さかった。
身長は不登校になってから測っていない。
「さあ……、行くか」
私は外に出た。
燃えるような陽射し。
アスファルトの照り返し。
今年初めての夏日。
ひきこもりの私にはちょっときつい。
「今日は雨、降らないのかなぁ」
外に出ただけで汗が滲む。
雨の匂いは感じない。
学校まで十分。
不老川の河川敷を歩いた。
生い茂る青草。花。虫。夏らしさを感じる。
水面から立ちのぼる上昇気流が私の背中を押す。
自然豊かな通学路。
咲いている花の名前は私にはわからない。たんぽぽ、あじさい……、わかるのはそれくらい。百合ちゃんだったらわかるのだろうか。
雑草に紛れて生きているローズマリーを見つけられるだろうか。
私には見つけられない。
学校に着いた。
市立王川中学校。
コンクリート四階建て。大きな校庭。体育館。
校門。
歩を止めて校舎を見る。
私が破壊した二年生の教室は丁寧に修繕され、何ごともなかったみたいに綺麗。
私が燃やした体育倉庫は跡形もなく撤去され、今は別の場所に新しい体育倉庫が建てられている。
授業は当たり前に行われている。学校が再開して二週間。ここにあるのはいつもの日常。
私がしたことの面影はほとんどない。
普段と違うのは警察の警備。
授業が再開されてからも、警察官による警備が二十四時間体制で敷かれている。
「ん?」
校門で歩を止めた。
二名の警察官が私を気にする。
「あ……、こんにちは!」
私は笑顔で挨拶をした。
制服を着た私。
十四才。
どこからどう見ても中学生。
「こんにちは」
挨拶を返される。
私は素通りして下駄箱へ向かう。
特に気にされる様子はない。
私はマークされているのではなかったのか。
こんな簡単に校舎に入れるとは思っていなかった。
ここで一悶着あることを想定していた。
家を出てから、警察に尾行されている感じもしない。私がただ鈍感なだけ? それとも私の勘違い?
だけどどっちでもいい。
だってもう死ぬんだ。
私が久しぶりに学校に来たのは自殺するためだ。
生きていても何も上手く行かない私は、もう生きるのに疲れた。
死にたい。
死んだ方がいいんだ、こんな私は。
だけど死ぬ前に復讐する。
復讐はまだ終わってない。
私だけが死んでみんながのうのうと普通に生きていくのは許せない。
そんなんじゃ死んでも死にきれない。
だから死ぬ前にみんな殺してやるんだ。
私のことを虐めてきた三年生たちと、みて見ぬフリしてきた先生たちに正義の制裁を下す。
私の力があれば無抵抗の人間を殺すくらいわけない。
だけどちょろちょろと逃げられたら厄介だ。だから可能なら一箇所にまとめた上で殺さないといけない。
その方法は考えてきた。
「三年……、二組っと」
――二十番。雨宮ゆゆ。
「へー、私の下駄箱ちゃんとあるんだな」
三年生になってから学校に来たのはこれが初めてだ。
私の名前に複雑な気持ちになった。
「みんな……、同じクラスなんだな」
芥川結愛。平沼綾花。鳥海恵里菜。
よく知っている名前が下駄箱にある。
見るだけで嘔気がする名前。
でも今はそうならない。
「っっと、上履きなんて久々だぁ。えへへ」
学校の匂い。
土と汗が混じった冷たい空気。
もしも自分が普通の中学生だったなら、なんて想像を一瞬、してしまう。
「これは……、まあ一旦置いておくか」
上空高くからポリタンク五十個を屋上へ下ろす。
能力を使い、家からずっと空高く上げて持ってきた。警察にはバレなかった。
中身はガソリン。
セルフ式のガソリンスタンドで夜中に入れた。
重量は三五〇キロ。
私の能力的に、この程度の重さは苦にならない。
自殺するために使うが、まだ少しだけ早い。
「さあ……、行くか」
誰も居ない廊下を歩いた。
無機質な電灯。
嫌な思い出ばかりが思い出される。
学校は楽しくない。
楽しいと思ったことは一度もない。
ここは地獄だ。
地獄を破壊する私は神か悪魔か。
「ヒーローじゃんか」
ぽつりと口に出す。
そうだ。私はヒーローだ。虐めを続けて一人の人間を自殺に追いやった悪人たちを成敗するためにやってきたヒーロー、ローズマリー。
「何も間違ってない」
そう言って二階の放送室へ行った。
能力を使って鍵を開ける。
鍵穴の形に変形させるくらい簡単にできる。
ドアを開ける。
中には誰も居なかった。
中央によくわからないスイッチがたくさんついた機械が置いてある。
これがメインの放送機材の様子。
その前にはマイクと、ヘッドフォン。
私は機械の前に座ってスイッチを入れたり切ったりする。
使い方はよくわからない。
だけど事前にネットで調べてきた。館内放送のオンオフスイッチと、何を放送しているかのスイッチやボリュームレベルの調整。
概ね、それが出来れば放送は出来る。
椅子に座り機械を見る。
ひとつひとつに、何のスイッチなのかテプラで名前が貼ってあり、わかりやすかった。
「多分……、これがマイクのボリュームで……、これがマスターボリュームだから……、これをこうすれば」
――ガシャガシャガシャガシャ……、ヴォォォォン!
スイッチをいじくっていると、放送がオンになった。
「なんだ……、思ったより簡単だったなぁ」
後はマイクのボリュームをあげたら、校内全体に放送することができる。
「すぅー、はぁー、ふぅー」
軽く深呼吸。
こんな大勢に向けて話すなんて初めてだ。
少し緊張する。
だけど思ったよりパニックにはならない。
目の前に誰も居ないから?
もう死ぬつもりだから?
「よし」
私はマイクの前に顔をちかづける。
ヘッドフォンを装着。
そしてボリュームをあげた。
「あー、あー、てす、てすー」
ヘッドフォンから自分の声が聞こえる。
少し震えている。
か細くて弱々しい。
「あー、皆さん聞こえますか? 授業中にすいません。私は、三年二組の雨宮ゆゆです」
これは私の戦争。
私の世界戦争だ。
負け犬だった私は反旗を翻し、敵への反撃を試みた。戦争は力をつけた私の圧倒的優勢。そして、今日、私の大勝利でハッピーエンドを迎えるのだ。
「皆さんは、私のことを覚えていますか? 特に先生方と三年生の皆さんには、たくさん、嫌なことをされました。忘れたとは言わせないです」
反応は聞こえない。
閉め切られた放送室。窓はなく、外の声は聞こえない。
だけど見える気がする。
「楽しかったですか? 私を虐めるのは。楽しかったですか? 私が不登校になって。楽しかったですか? 私は楽しくなかったですよ。苦しかったです。死にたくなるくらいに嫌でした」
原稿は考えていない。
口を開いたら言葉が自然と溢れ出す。
「だから死にます! 今日、これから、体育館でガソリンを被って死にます!」
大量のガソリンで焼身自殺。
しかし同時に、みんなにも死んでもらう。
「とめたかったら、全校生徒全職員、体育館に集合して下さい。この放送が終わったらすぐにです」
一箇所に集めないと逃げ回られて面倒。
もちろん、そんな都合良く集まるとは思っていない。
「言うことを聞かなかったら、みんな殺します」
ガソリンは大量にある。
みんなに使うためにたくさん持ってきた。
「王川中学校テロ事件。話題ですよね? 体育倉庫が燃やされ、校舎が破壊され、三年生が暴行を受ける事件……、そのせいで休校になったり、警察に警備されたりしていますよね?」
この放送を聞いて警察が動いているかも知れない。
さっきの警察官がここに乗り込んでくるかも知れない。
だからって関係ない。
「あれは全部、私がしたことです。犯人は私です。私が、平沼綾花さんを暴行した容疑で捕まったことは、知っている人は知っているかも知れませんが、他の人も私がボコボコにしました。学校をめちゃくちゃにしたのも私。みんな私がやりました」
情報が伝わるのは早い。
平沼の事件のことは多分、学校中で知られている。
警察と同じように、みんなも私がテロ事件の犯人じゃないかって思っていたかもしれない。
「方法は説明できませんが、もし、私の要求を断ったら、全員、殺します。それができるだけの準備はしてあります。なので命がおしかったら大人しく体育倉庫に来て下さい。お願いします。みんなに、直接、言いたいことがあるからです」
――ブッッッー
そう言って放送を切った。
我ながら素直に言えたと思った。顔を直接見なければ、案外、話せるのかも知れないと思ったが、もうどうでもいいことだ。
――ドンドンドン!
「おいー! 何してる!」
ドアを叩く音。
大きな声が複数聞こえる。
放送を聞いてやってきた先生たちだろう。
「何って、放送聞いてなかったの?」
呟くがドアの外には届かない。
「まあ、とりあえず体育館に行くか」
私は立ち上がり校庭側の壁へ向かう。
窓はない。
しかしこの向こうが位置的に校庭。
――ドシャアアアアアアアアン。
能力を使い壁を破壊する。
一瞬にして空への道が出来る。
「あー、暑いなぁ。夏だなぁ」
何分かぶりの空。
青空が延々と広がる。
「どうせなら、雨がよかったのになぁ」
私は雨が好き。
どうせ死ぬなら雨の日に死んだ方がドラマチックでよかった。
「ま、いいか」
私は能力を使い空を飛ぶ。
風を切る私は自由。
乾いた風。
湿った匂いはどこにもない。
「降水確率〇パーセント……」
七月十三日。
雨があがった。
午前十一時。
昼のニュースで梅雨明けの話題をやっている。
「記録的被害を出した梅雨が明け、本格的に夏が来るでしょう。今日の降水確率は〇パーセント。今年初めての夏日です」
窓の外は目映い光。
私はテレビを切って靴を履いた。
これから約一年ぶりに登校するのだ。
ローファー。
制服。
中学生の格好。
着てみたら少しサイズが小さかった。
身長は不登校になってから測っていない。
「さあ……、行くか」
私は外に出た。
燃えるような陽射し。
アスファルトの照り返し。
今年初めての夏日。
ひきこもりの私にはちょっときつい。
「今日は雨、降らないのかなぁ」
外に出ただけで汗が滲む。
雨の匂いは感じない。
学校まで十分。
不老川の河川敷を歩いた。
生い茂る青草。花。虫。夏らしさを感じる。
水面から立ちのぼる上昇気流が私の背中を押す。
自然豊かな通学路。
咲いている花の名前は私にはわからない。たんぽぽ、あじさい……、わかるのはそれくらい。百合ちゃんだったらわかるのだろうか。
雑草に紛れて生きているローズマリーを見つけられるだろうか。
私には見つけられない。
学校に着いた。
市立王川中学校。
コンクリート四階建て。大きな校庭。体育館。
校門。
歩を止めて校舎を見る。
私が破壊した二年生の教室は丁寧に修繕され、何ごともなかったみたいに綺麗。
私が燃やした体育倉庫は跡形もなく撤去され、今は別の場所に新しい体育倉庫が建てられている。
授業は当たり前に行われている。学校が再開して二週間。ここにあるのはいつもの日常。
私がしたことの面影はほとんどない。
普段と違うのは警察の警備。
授業が再開されてからも、警察官による警備が二十四時間体制で敷かれている。
「ん?」
校門で歩を止めた。
二名の警察官が私を気にする。
「あ……、こんにちは!」
私は笑顔で挨拶をした。
制服を着た私。
十四才。
どこからどう見ても中学生。
「こんにちは」
挨拶を返される。
私は素通りして下駄箱へ向かう。
特に気にされる様子はない。
私はマークされているのではなかったのか。
こんな簡単に校舎に入れるとは思っていなかった。
ここで一悶着あることを想定していた。
家を出てから、警察に尾行されている感じもしない。私がただ鈍感なだけ? それとも私の勘違い?
だけどどっちでもいい。
だってもう死ぬんだ。
私が久しぶりに学校に来たのは自殺するためだ。
生きていても何も上手く行かない私は、もう生きるのに疲れた。
死にたい。
死んだ方がいいんだ、こんな私は。
だけど死ぬ前に復讐する。
復讐はまだ終わってない。
私だけが死んでみんながのうのうと普通に生きていくのは許せない。
そんなんじゃ死んでも死にきれない。
だから死ぬ前にみんな殺してやるんだ。
私のことを虐めてきた三年生たちと、みて見ぬフリしてきた先生たちに正義の制裁を下す。
私の力があれば無抵抗の人間を殺すくらいわけない。
だけどちょろちょろと逃げられたら厄介だ。だから可能なら一箇所にまとめた上で殺さないといけない。
その方法は考えてきた。
「三年……、二組っと」
――二十番。雨宮ゆゆ。
「へー、私の下駄箱ちゃんとあるんだな」
三年生になってから学校に来たのはこれが初めてだ。
私の名前に複雑な気持ちになった。
「みんな……、同じクラスなんだな」
芥川結愛。平沼綾花。鳥海恵里菜。
よく知っている名前が下駄箱にある。
見るだけで嘔気がする名前。
でも今はそうならない。
「っっと、上履きなんて久々だぁ。えへへ」
学校の匂い。
土と汗が混じった冷たい空気。
もしも自分が普通の中学生だったなら、なんて想像を一瞬、してしまう。
「これは……、まあ一旦置いておくか」
上空高くからポリタンク五十個を屋上へ下ろす。
能力を使い、家からずっと空高く上げて持ってきた。警察にはバレなかった。
中身はガソリン。
セルフ式のガソリンスタンドで夜中に入れた。
重量は三五〇キロ。
私の能力的に、この程度の重さは苦にならない。
自殺するために使うが、まだ少しだけ早い。
「さあ……、行くか」
誰も居ない廊下を歩いた。
無機質な電灯。
嫌な思い出ばかりが思い出される。
学校は楽しくない。
楽しいと思ったことは一度もない。
ここは地獄だ。
地獄を破壊する私は神か悪魔か。
「ヒーローじゃんか」
ぽつりと口に出す。
そうだ。私はヒーローだ。虐めを続けて一人の人間を自殺に追いやった悪人たちを成敗するためにやってきたヒーロー、ローズマリー。
「何も間違ってない」
そう言って二階の放送室へ行った。
能力を使って鍵を開ける。
鍵穴の形に変形させるくらい簡単にできる。
ドアを開ける。
中には誰も居なかった。
中央によくわからないスイッチがたくさんついた機械が置いてある。
これがメインの放送機材の様子。
その前にはマイクと、ヘッドフォン。
私は機械の前に座ってスイッチを入れたり切ったりする。
使い方はよくわからない。
だけど事前にネットで調べてきた。館内放送のオンオフスイッチと、何を放送しているかのスイッチやボリュームレベルの調整。
概ね、それが出来れば放送は出来る。
椅子に座り機械を見る。
ひとつひとつに、何のスイッチなのかテプラで名前が貼ってあり、わかりやすかった。
「多分……、これがマイクのボリュームで……、これがマスターボリュームだから……、これをこうすれば」
――ガシャガシャガシャガシャ……、ヴォォォォン!
スイッチをいじくっていると、放送がオンになった。
「なんだ……、思ったより簡単だったなぁ」
後はマイクのボリュームをあげたら、校内全体に放送することができる。
「すぅー、はぁー、ふぅー」
軽く深呼吸。
こんな大勢に向けて話すなんて初めてだ。
少し緊張する。
だけど思ったよりパニックにはならない。
目の前に誰も居ないから?
もう死ぬつもりだから?
「よし」
私はマイクの前に顔をちかづける。
ヘッドフォンを装着。
そしてボリュームをあげた。
「あー、あー、てす、てすー」
ヘッドフォンから自分の声が聞こえる。
少し震えている。
か細くて弱々しい。
「あー、皆さん聞こえますか? 授業中にすいません。私は、三年二組の雨宮ゆゆです」
これは私の戦争。
私の世界戦争だ。
負け犬だった私は反旗を翻し、敵への反撃を試みた。戦争は力をつけた私の圧倒的優勢。そして、今日、私の大勝利でハッピーエンドを迎えるのだ。
「皆さんは、私のことを覚えていますか? 特に先生方と三年生の皆さんには、たくさん、嫌なことをされました。忘れたとは言わせないです」
反応は聞こえない。
閉め切られた放送室。窓はなく、外の声は聞こえない。
だけど見える気がする。
「楽しかったですか? 私を虐めるのは。楽しかったですか? 私が不登校になって。楽しかったですか? 私は楽しくなかったですよ。苦しかったです。死にたくなるくらいに嫌でした」
原稿は考えていない。
口を開いたら言葉が自然と溢れ出す。
「だから死にます! 今日、これから、体育館でガソリンを被って死にます!」
大量のガソリンで焼身自殺。
しかし同時に、みんなにも死んでもらう。
「とめたかったら、全校生徒全職員、体育館に集合して下さい。この放送が終わったらすぐにです」
一箇所に集めないと逃げ回られて面倒。
もちろん、そんな都合良く集まるとは思っていない。
「言うことを聞かなかったら、みんな殺します」
ガソリンは大量にある。
みんなに使うためにたくさん持ってきた。
「王川中学校テロ事件。話題ですよね? 体育倉庫が燃やされ、校舎が破壊され、三年生が暴行を受ける事件……、そのせいで休校になったり、警察に警備されたりしていますよね?」
この放送を聞いて警察が動いているかも知れない。
さっきの警察官がここに乗り込んでくるかも知れない。
だからって関係ない。
「あれは全部、私がしたことです。犯人は私です。私が、平沼綾花さんを暴行した容疑で捕まったことは、知っている人は知っているかも知れませんが、他の人も私がボコボコにしました。学校をめちゃくちゃにしたのも私。みんな私がやりました」
情報が伝わるのは早い。
平沼の事件のことは多分、学校中で知られている。
警察と同じように、みんなも私がテロ事件の犯人じゃないかって思っていたかもしれない。
「方法は説明できませんが、もし、私の要求を断ったら、全員、殺します。それができるだけの準備はしてあります。なので命がおしかったら大人しく体育倉庫に来て下さい。お願いします。みんなに、直接、言いたいことがあるからです」
――ブッッッー
そう言って放送を切った。
我ながら素直に言えたと思った。顔を直接見なければ、案外、話せるのかも知れないと思ったが、もうどうでもいいことだ。
――ドンドンドン!
「おいー! 何してる!」
ドアを叩く音。
大きな声が複数聞こえる。
放送を聞いてやってきた先生たちだろう。
「何って、放送聞いてなかったの?」
呟くがドアの外には届かない。
「まあ、とりあえず体育館に行くか」
私は立ち上がり校庭側の壁へ向かう。
窓はない。
しかしこの向こうが位置的に校庭。
――ドシャアアアアアアアアン。
能力を使い壁を破壊する。
一瞬にして空への道が出来る。
「あー、暑いなぁ。夏だなぁ」
何分かぶりの空。
青空が延々と広がる。
「どうせなら、雨がよかったのになぁ」
私は雨が好き。
どうせ死ぬなら雨の日に死んだ方がドラマチックでよかった。
「ま、いいか」
私は能力を使い空を飛ぶ。
風を切る私は自由。
乾いた風。
湿った匂いはどこにもない。
「降水確率〇パーセント……」