ゆめゆあ~大嫌いな私の世界戦争~
自殺する日4
 18

「ねえ? 結愛ちゃん。いや、芥川さん。あんな酷いことしておいてさ、何の罪も受けないなんておかしいよね?」
 七月十三日。
 体育館。全校生徒職員が固唾をのんでいる。
 窓からは光。空は快晴。
「何とか言えよ!」
 大きな声。マイクが音割れする。
 芥川は少し怖がっている様子で答える。
「あ、あれは! みんなで……、やり始めたことで……、私に言われても……」
 歯切れが悪い。
 こないだ商店街で会った時とは全然違う。
 私を怖がってる。
「はぁ? だからって罪は一緒でしょ。学校に来させるゲーム? なんだよそれ」
 芥川は何も言わない。
 弁解する余地もないのか。
「あれでしょ? ドアを開けたらバケツが落ちてくるようになってたんでしょ? そんな仕掛けまでわざわざ作ってさ、そこまでして私のこと傷つけたかったの?」
 タイミングも計算してあった。
 その為にLINEを送ってた?
 床に付いたペンキの後処理も面倒なはず。
 先生へは何て言った?
 だけどそんなこと大した問題じゃないか。
 先生たちは私に無関心。
 みて見ぬフリだったから。
「何で赤いペンキだったの?」
「べ、別に……、意味なんて……、何となくノリで……」
 あの日、汚れた制服はすぐに燃やした。
 しばらくしてお母さんが新しい制服を買ってきた。
 学校に行くことを強制はしなかった。 
 だけど行って欲しかったんだと思う。
 この制服を着たのは今日が初めてだ。
「はぁ? ノリで? ノリであんな酷いことしたの?」
「わ、悪かったわよ……ごめんね」
「ふざけんな!」
 私は能力を使い壁や床を叩いた。
 激しい音がする。
 床や壁に穴があく。
――キャアアアアアアアアアアア。
 悲鳴。
 叫び。
 一瞬にしてパニック状態だ。
「で、でも! あ、雨宮さんだって……悪いのよ」
「はぁ?」
「だ、だって、なんか雨宮さん変でしょ。まともに会話できないし、モジモジしてて気持ち悪いの。それにさ、街とか不老川で傘を振りまわしてるでしょ。叫んだりぶつぶつ言いながらさ」
「だったら何?」
「そんなことしてたらさ、虐められたって仕方ないんじゃないの? だって気持ち悪いから」
 虐めの理由なんて今さらどうでもいい。
 私が変?
 知ってる。
 人見知りのコミュ症。見た目も悪い。家はシングルマザーで、一人で居る時間が多くて社交性がない。。
 趣味もおかしくて傘を振り回して遊ぶのが好きだった。子供じみた遊び。 
 煙たがられるのも当然か。
 でも好きでこうなったわけじゃない。
「うるさい! うるさいな!」
 能力を使い芥川の体を掴んだ。
 そのまま宙づりにする。
「あ……、あぁぁ」
――キャアアアアアアアアアア。
 悲鳴が大きくなる。
 四方のドアからみんなが逃げだそうとする。
「逃がすか!」
 私はもう一つの見えない手を使いドアを破壊する。
 ドアを叩いて変形させ開かなくした。
 さらに天井をむしり取った。
 木や金属の破片。
 ドアの周辺へ投げ飛ばして封鎖した。
 何層にも重なってとても取り除けない。
「へへへ……、誰も逃がさない」
 私は異常かもしれない。
 頭が変だ。
 それはわかってる。
 好きでこうなったわけじゃない。直そうともした。どもりを改善しようとしたり、笑顔を作る練習をしたり、コンタクトにしようとしたり、努力はした。
 だけど変わらなかった。
 私はみんなみたいに普通にはなれない。
 でも、だからって虐めていいの?
 自殺したくなるくらいに傷つけていいの?
 変な人には何をしていいの? 
「芥川さん……、あなたには私の気持ちは絶対にわからない。わかるわけないんだ」
「あぐぅあぁぁ……」 
 能力を使い全身を締めあげる。
 いつもみたいに肺が圧迫され呼吸が苦しそう。
 ミシミシ……、と音がする。
 見えない手から伝わる感覚。
「殺してやる。殺してやる。殺してやる」
 苦しそう。
 言葉も上手く喋れない。
 もう、
「雨宮さんも悪い」
 とは言えない。
 言わせてたまるか。
 どんな理由があっても酷いことをした事実は変わらない。
 罪は消えない。
「殺してやる!」
 虐めを指揮した芥川結愛。
 そして三年生のみんな。
 みて見ぬフリしてきた先生。
 誰も彼もみんな悪。
 みんな死ね。
「死ね死ね死ね死ね!」
 学校に行かなくなってから時間はたくさんあった。
 色んなことを考えた。
 だけど最後に行きつくのはいつも同じだった。
「どうして……、私ばっかり」
 けれどそれももう終わりだ。
 復讐する。
 一矢報いて私も死ぬ。
 それでハッピーエンドだ。
「死ね!」
「あ、あぁぁぁぁぁあぁ」
 殺す。
 そう思って力をこめた。
 バキバキバキ……。
 骨が折れる音が伝わる。
 これで終わり。
 死ね。
 全てを終わらせようとした。
 その時だった――。
――ドグアァァァァァァァァァァァァァアッァァァァッァァァァアァッン
「え?」
 ドアの方から爆発したみたいな音がした。 
 すぐに視線を送る。
 ドアを塞いでいた金属や木片が散らばっている。
 その向こうにあったのは、
「くるま?」
 トラックだった。
 大きな二トントラックがドアをぶち破ってつっこんできていた。
「……何?」
 予期せぬ事態に思考が追いつかない。
 能力も解除される。
 芥川が床に落ちる。
 みんなの悲鳴がさらに大きくなる。
 逃げ惑う。
「な、何だ、一体」
 トラックは半分、体育館に乗り上げた状態で停止。
 窓ガラスやフロント部分が一部、破損している。
 エンジンはかかったまま。
 空ぶかしでタイヤが回る。白煙が上がる。
「ごめんなさい。ありがとうございました。細かいことは後で何とかします。すいませんでした。お仕事中に」
 助手席のドアが開いた。
 人が降りてきた。
 よく知ってる顔。
 白い花がよく似合いそうな綺麗な顔をした彼女は……、
「百合……ちゃん?」

< 19 / 22 >

この作品をシェア

pagetop