ゆめゆあ~大嫌いな私の世界戦争~
復讐クラブ「エンジェルトランペット」
1
遡ること三ヶ月前。
四月。
桜吹雪の季節は少し前に過ぎて、世間では新学期、新生活が落ち着いてきたころ。
私は雨宮ゆゆ。十四才。
背が小さくて色気がない。
視力が弱くて大きなメガネをかけている。
私は不登校。
学校に行かず雑木林にいる。
午後四時。
使い捨てられたプレハブ工場。
二階建て。
大きさは学校の教室二クラス分くらいはある。
所々窓が割れ、天井からは雨漏り。床は泥だらけ。缶やらプラスチックやら廃材が散乱している。
ここを私は秘密基地と名付けた。
「きゃあ! 虫! 虫! ゆゆちゃん! 虫が……」
「虫くらいるよ。半分、外なんだから」
「百合葉は、相変わらず虫がダメだな」
「メルもでしょ」
「俺は別にそんな……、叫んだりしないし」
「きゃああ、虫がこっちにも!」
白井百合葉と音無旋律(メロディ)。
二人は私と同い年の中学三年生。
百合ちゃんは穏やかな性格で、動物や植物が好きだ。色白で育ちが良く、メガネをかけている。
メルはプライドが高くて、物事を斜めに見る癖がある。
そして二人には友達がいない。
「百合ちゃんは相変わらず面白いなぁ」
「そんなぁ、私面白いことなんかしてませんよー」
「なんか……、感情がわかりやすくていいなぁ」
「そんなことないですよ-。思ったことがすぐ顔に出たり、喋っちゃったりして空気が読めないって言われちゃうんですから」
「まあ確かに。百合葉は空気読めないな」
「メルくん! そんなハッキリ言わなくてもいいじゃないですかー」
「メルも空気読めない」
教室の空気を読むのが二人は苦手。
コミュ症。
周りに合わせられず、浮いてしまう。
そんな私たちは虐めの対象になりやすい。
学校が嫌い。
教室が息苦しい。
どこにも居場所がなかった。
「でも、エンジェルトランペットはそんな人のための組織だから」
そんな私たちはクラブを作った。。
復讐クラブ”エンジェルトランペット”。
「このあじさいのシンボルマークが私たちの決意の証じゃんか!」
「へー」
「そうなんですねー」
「って、なんだその反応は!」
「いや、別に」
「うんうん。そうなんだなー、って思っただけです」
「みんな何もわかってないじゃんかー!」
壁に黒と白のスプレーで描いたイラスト。
あじさいの花の後ろで、三本の剣が交差する。
「あじさいの葉っぱには毒があるんだよ。その毒素は大したことないけど、束になれば人だって殺せる。普段、気にもされない道端に咲いたあじさいだって、結束したら強大な力を持つんだっていう……、意味で、もちろんあじさいの葉っぱは学校で虐げられてきた私たちの象徴だし、一枚一枚の毒素が少ないけど、束になれば凄いぞっていうのも私たちの結束を表現したもので……、って聞いてる?」
「聞いてる」
「聞いてます」
「そ、そっか! う、うん。それで、このイラストは、まさしく私たちの決意のシンボルなわけじゃんか」
「はぁ」
「なるほど」
「み、みんなやる気なさすぎ-! もっと真剣になろうよ! 私たちは結束して、学校のみんなに復讐するんでしょ!」
「そうなんですか?」
「ゆ、百合ちゃん! そこをわかってないって今まで一体、何をしてきたのさ!」
「だって復讐とかやりたくないですし」
「百合葉は暴力とか嫌いだしな」
「うんうん。そうです」
「あ、あのね。エンジェルトランペットは、復讐クラブなんだよ! みんな悔しくないの! みんな、あんなにも虐められてきてさ、嫌な思いをしてきたんじゃないの? それで、不登校になってさ……、このままじゃ死んでも死にきれないけど、一人じゃ復讐も出来ないし……、だからみんなで結束して反撃してやるんだって、そんな思いで作られたのがこのクラブじゃんか!」
「それはお前のことだろ。俺は不登校じゃないし」
「そうですね。私も……、学校は行けてますし」
「だけど、気持ちは同じでしょ!」
「まあ……、だけど、行動を起こせないのはリーダーのゆゆが弱気だからだろ。俺はいつもアイディア出してきたけど、結局、お前が弱腰だから何も始まらないんだろ」
「ち、違う」
「違わないよ。前に学校を爆破したらどう? って提案した時も、口ではやろうやろうって盛り上がったけど、結局、リスクが高すぎるとか言って、やらなかっただろ。ゆゆは、口では調子いいこと言うけど、いざやるとなったら、ビビって何も出来ないだろ。だからだよ。だから、みんなやる気がなくなってるんだよ」
メルの言うとおりだった。
私は気が弱い。
行動力もない。
学校に行ってた時もそうだった。毎日毎日、みんなに無視されて、影口叩かれて、病原菌扱いだった。机に落書きされたり、上履きに画鋲が入ってたりするのは日常だった。机が教室の外に出されていたり、上履きがゴミ箱に捨てられていたこともあった。
「みんなぶっ殺してやる」
って、思ってナイフを買った。
学校に持っていったこともあった。
でも、何も出来ない。
私は臆病だ。
「どうした? 俺の言うこと、何かおかしかったか?」
「いや……」
「お前は結局口だけなんだよ」
「……」
何も言えなかった。
私は弱い。
だから虐められてきた。ナイフなんかなくたって、一言、
「やめて!」
って言えれば、どれだけ違っただろうか。言ったことで虐めが終わるとは思わない。でも、反撃の意思を示さなければ、無限に虐めは続く。「あいつには何をしてもいい」
って思われて、果てしなく虐められる。
実体験からそう思う。
頭では、色んなことを考える。
私はアニメや映画が好きだ。
ヒーローが活躍する勧善懲悪な話しが特に好き。いじめられっ子が力を得て、正義のために活躍するようなストーリーが一番好き。
エンジェルトランペットを作ったのは、そんな風になりたかったから。
私はヒーローになりたかった。
悪い奴らを懲らしめるヒーローになりたかった。
「そうだよ……、私にはどうせ何の力もない……、ただの……、夢見がちなバカだよ!」
――ガラアアアアアアアアアアアンン。
近くに転がっていた廃材の缶を蹴りとばした。
ガララララ、と転がっていく。
「私はどうせバカなんだよ! でもしょうがないじゃんか!」
「おい……そんな怒らなくても……」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
「ゆ、ゆゆちゃ……」
「私なんてどうせ――」
――バァアアアアアアアアアアアアアアアアン。
「え?」
何かが爆発した音がした。
なんだ?
さっきの缶?
中身入ってたの?
「う……」
異臭がした。
鼻がもげるような強烈な刺激臭。
頭がクラクラした。
「あぐ……あ……」
やばい、そう思った瞬間だった。
私は気を失った。
遡ること三ヶ月前。
四月。
桜吹雪の季節は少し前に過ぎて、世間では新学期、新生活が落ち着いてきたころ。
私は雨宮ゆゆ。十四才。
背が小さくて色気がない。
視力が弱くて大きなメガネをかけている。
私は不登校。
学校に行かず雑木林にいる。
午後四時。
使い捨てられたプレハブ工場。
二階建て。
大きさは学校の教室二クラス分くらいはある。
所々窓が割れ、天井からは雨漏り。床は泥だらけ。缶やらプラスチックやら廃材が散乱している。
ここを私は秘密基地と名付けた。
「きゃあ! 虫! 虫! ゆゆちゃん! 虫が……」
「虫くらいるよ。半分、外なんだから」
「百合葉は、相変わらず虫がダメだな」
「メルもでしょ」
「俺は別にそんな……、叫んだりしないし」
「きゃああ、虫がこっちにも!」
白井百合葉と音無旋律(メロディ)。
二人は私と同い年の中学三年生。
百合ちゃんは穏やかな性格で、動物や植物が好きだ。色白で育ちが良く、メガネをかけている。
メルはプライドが高くて、物事を斜めに見る癖がある。
そして二人には友達がいない。
「百合ちゃんは相変わらず面白いなぁ」
「そんなぁ、私面白いことなんかしてませんよー」
「なんか……、感情がわかりやすくていいなぁ」
「そんなことないですよ-。思ったことがすぐ顔に出たり、喋っちゃったりして空気が読めないって言われちゃうんですから」
「まあ確かに。百合葉は空気読めないな」
「メルくん! そんなハッキリ言わなくてもいいじゃないですかー」
「メルも空気読めない」
教室の空気を読むのが二人は苦手。
コミュ症。
周りに合わせられず、浮いてしまう。
そんな私たちは虐めの対象になりやすい。
学校が嫌い。
教室が息苦しい。
どこにも居場所がなかった。
「でも、エンジェルトランペットはそんな人のための組織だから」
そんな私たちはクラブを作った。。
復讐クラブ”エンジェルトランペット”。
「このあじさいのシンボルマークが私たちの決意の証じゃんか!」
「へー」
「そうなんですねー」
「って、なんだその反応は!」
「いや、別に」
「うんうん。そうなんだなー、って思っただけです」
「みんな何もわかってないじゃんかー!」
壁に黒と白のスプレーで描いたイラスト。
あじさいの花の後ろで、三本の剣が交差する。
「あじさいの葉っぱには毒があるんだよ。その毒素は大したことないけど、束になれば人だって殺せる。普段、気にもされない道端に咲いたあじさいだって、結束したら強大な力を持つんだっていう……、意味で、もちろんあじさいの葉っぱは学校で虐げられてきた私たちの象徴だし、一枚一枚の毒素が少ないけど、束になれば凄いぞっていうのも私たちの結束を表現したもので……、って聞いてる?」
「聞いてる」
「聞いてます」
「そ、そっか! う、うん。それで、このイラストは、まさしく私たちの決意のシンボルなわけじゃんか」
「はぁ」
「なるほど」
「み、みんなやる気なさすぎ-! もっと真剣になろうよ! 私たちは結束して、学校のみんなに復讐するんでしょ!」
「そうなんですか?」
「ゆ、百合ちゃん! そこをわかってないって今まで一体、何をしてきたのさ!」
「だって復讐とかやりたくないですし」
「百合葉は暴力とか嫌いだしな」
「うんうん。そうです」
「あ、あのね。エンジェルトランペットは、復讐クラブなんだよ! みんな悔しくないの! みんな、あんなにも虐められてきてさ、嫌な思いをしてきたんじゃないの? それで、不登校になってさ……、このままじゃ死んでも死にきれないけど、一人じゃ復讐も出来ないし……、だからみんなで結束して反撃してやるんだって、そんな思いで作られたのがこのクラブじゃんか!」
「それはお前のことだろ。俺は不登校じゃないし」
「そうですね。私も……、学校は行けてますし」
「だけど、気持ちは同じでしょ!」
「まあ……、だけど、行動を起こせないのはリーダーのゆゆが弱気だからだろ。俺はいつもアイディア出してきたけど、結局、お前が弱腰だから何も始まらないんだろ」
「ち、違う」
「違わないよ。前に学校を爆破したらどう? って提案した時も、口ではやろうやろうって盛り上がったけど、結局、リスクが高すぎるとか言って、やらなかっただろ。ゆゆは、口では調子いいこと言うけど、いざやるとなったら、ビビって何も出来ないだろ。だからだよ。だから、みんなやる気がなくなってるんだよ」
メルの言うとおりだった。
私は気が弱い。
行動力もない。
学校に行ってた時もそうだった。毎日毎日、みんなに無視されて、影口叩かれて、病原菌扱いだった。机に落書きされたり、上履きに画鋲が入ってたりするのは日常だった。机が教室の外に出されていたり、上履きがゴミ箱に捨てられていたこともあった。
「みんなぶっ殺してやる」
って、思ってナイフを買った。
学校に持っていったこともあった。
でも、何も出来ない。
私は臆病だ。
「どうした? 俺の言うこと、何かおかしかったか?」
「いや……」
「お前は結局口だけなんだよ」
「……」
何も言えなかった。
私は弱い。
だから虐められてきた。ナイフなんかなくたって、一言、
「やめて!」
って言えれば、どれだけ違っただろうか。言ったことで虐めが終わるとは思わない。でも、反撃の意思を示さなければ、無限に虐めは続く。「あいつには何をしてもいい」
って思われて、果てしなく虐められる。
実体験からそう思う。
頭では、色んなことを考える。
私はアニメや映画が好きだ。
ヒーローが活躍する勧善懲悪な話しが特に好き。いじめられっ子が力を得て、正義のために活躍するようなストーリーが一番好き。
エンジェルトランペットを作ったのは、そんな風になりたかったから。
私はヒーローになりたかった。
悪い奴らを懲らしめるヒーローになりたかった。
「そうだよ……、私にはどうせ何の力もない……、ただの……、夢見がちなバカだよ!」
――ガラアアアアアアアアアアアンン。
近くに転がっていた廃材の缶を蹴りとばした。
ガララララ、と転がっていく。
「私はどうせバカなんだよ! でもしょうがないじゃんか!」
「おい……そんな怒らなくても……」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
「ゆ、ゆゆちゃ……」
「私なんてどうせ――」
――バァアアアアアアアアアアアアアアアアン。
「え?」
何かが爆発した音がした。
なんだ?
さっきの缶?
中身入ってたの?
「う……」
異臭がした。
鼻がもげるような強烈な刺激臭。
頭がクラクラした。
「あぐ……あ……」
やばい、そう思った瞬間だった。
私は気を失った。