ゆめゆあ~大嫌いな私の世界戦争~
ゆめゆあ
 21

「ゆゆちゃ~ん。暑いですぅ~。何でこんな所に集まるんですかぁ~」
「それはここが私たちの基地だからです!」
 八月。
 秘密基地。
 ひび割れたガラスの隙間から燦々とした太陽が覗く。
 三人。
 私、百合ちゃん、メル。
 これが私たちの新しいクラブ、”ゆめゆあ”のメンバーだ。
「世界各地の秘境や未知なる現象を追い求める選ばれし者のクラブ」
 エンジェルトランペットは解散した。
 もう復讐クラブは必要ない。
 問いへの答えはまだ出ていない。
 私がしたことが悪いことだったのか、正しいことだったのか、それはまだわからない。
「それが秘密結社ゆめゆあだ!」
「ださ……」
「何だって! メル!」
「いや……、別に」
 最近、メルとも正式に友達になった。
 いや、友達に正式なんてないのかも知れない。
 相変わらず私はダメだ。
「いいんじゃない? ゆめゆあ。俺たちの能力のルーツをオカルトに求めるっていうのは、案外、理にかなってるんじゃないの」
 あの日、メルは私に会いに来こようとしてくれていたみたいなのだ。
 心配してくれていた。
 駅に着いた時。
 私の家の方へ能力を使った時、あの校内放送を聞いた。
 緊急だと思ったメルは百合ちゃんへ連絡をした。
 そしてトラックをヒッチハイクした百合ちゃんが体育館へ突っ込むことになった。
「本来、世の中的には存在しないものなんだからさ。超能力なんて。オカルトとか心霊現象と同じ扱いだもん」
 あの日の事件はなかったことになった。
 あれを覚えているのは三人だけ。
 私。
 百合ちゃん。
 メル。
 それ以外の人たちは記憶をすり替えられ、
「普通の日常を送っていたら体育館が崩落してそこに居た芥川結愛や大楠先生たちが負傷した」
 と信じている。
 簡単な作業ではなかった。
 全校生徒職員約三〇〇名。
 さらに警察官やトラック運転手たち関係者も含めればもっとだ。
 情報が広がる前に洗脳する必要もあった。
 だから一度逃げだした私たちはメルと合流し、すぐに現場に戻った。
 メルの盗聴と透視で情報を集め、私の念力で道を切り開き、百合ちゃんが洗脳する。
 三人居れば何でも出来る。
 そうして大ごとになる前に全ては闇に葬られた。
「そうそう! よくわかってんじゃんか!」
 負傷した芥川たちはすぐに病院へ運ばれた。
 各々、傷の程度にばらつきはあったが命に別状はなく、今はもう元気に学校へ通っている。
 退院した平沼綾花や鳥海恵里菜たち暴行事件の被害者からも、能力に関する情報を抜き取ることで、これ以上、事件が再燃しないよう注意を払った。
 学校の厳戒態勢も終了し、王川中周辺で起こった数々の騒動は一応の終息を迎えた。
「だから今度は桜ヶ丘中の伝説の第二音楽室へ行こうよ!」
 私には力がある。
 弱虫な私でも世界をめちゃくちゃに出来る強大な力だ。
「大いなる力には大いにある責任が伴う」
 スパイダーマンに出てくる言葉。
 その通りだ。
 私は小さい。
 体も、
 心も。
 何もかもが小さい。
 この力は私には過ぎた力だ。
「知ってるでしょ? 桜ヶ丘中の旧校舎には第一音楽室と第三音楽室があるのに、第二音楽室がないんだよね」
 私はもっと大きくならないといけない。
 世界は広い。
 私の世界はちっぽけだ。
 学校。
 地元。
 家族。
 狭い世界でいくら戦争を起こしても、きっとちっぽけな火花で終わってしまう。
 私は知る必要がある。
 この世界のことを。
 そして自分のことを。
「自殺したんだよ。生徒が。第二音楽室で。原因は虐めだったといわれてる。それで第二音楽室は取り壊されたんだけど……それから時々、どこからともなく悲鳴が聞こえるらしいんだ。そしてその悲鳴の方へ行ってみると……」
「あるわけか」
「そう! そこには取り壊したはずの第二音楽室があるんだよ! しかもドアを開けると過去とつながってるんだ。第二音楽室を通じて!」
 私は答えを探して生きていく。
 みんなとならきっと導き出せると思う。
 みんなのクラブ。
 ゆゆ、と、百合、と、メル、が遊ぶ。
 ゆめゆあなら。
「へー、そんな話があるんですねー」
「って百合ちゃん桜ヶ丘中でしょ! 有名な話しじゃんか!」
「あはは……、私、友達がいないので、そういう噂話には疎くて……」
 作り笑顔の百合ちゃん。
 申し訳なさそうな顔。
「ごめんなさいね……」
 そんなことない。
 謝る必要なんてない。
「そっか……」
 何かしらの答えが出るまで能力は使わないと決めた。
 大いなる責任を持って使える、その時まで。
「あはは。同じだね」
 ゆめゆあの三人はみんな同じ。
 私たちは仲間。
 そして友達だ。
「私も百合ちゃんたち以外に友達いない!」
 そうだよ。
 私はひきこもり。
 コミュ症で社会不適合者の一四才。
「でも百合ちゃんは大好き!」
 もうすぐ二学期。
 同年代は受験も間近。
 私の進路は? 
 何も決まってない。
 先生とはあれから会ってない。会ったところで進路相談をしたいとは思わない。
 とにかくもう、王川中とは関わりたくない。
「え……? あ、……、あはは……、えへへ、ありがとうございます」  
 私は相変わらずバカだ。
 人との距離感が測れない。
 言ってから恥ずかしくなる。
「あ……、い、いや……、べ、別に、い、いいよ」
 やっぱりこんな自分が嫌い。
 私は何も変わっていない。
「あー! 顔赤くなってるぅー! 可愛いー!」
「ち、違……、別に、可愛くなんて……、ないんだから!」
 でも今は、無理に変わろうとは思わない。
 私は顔を隠す。
 早足で外へ歩いていく。
「待って~、ゆゆちゃーん」
「ゆゆー」
 私の進路は何も決まっていない。
 これからどうなるのか誰にもわからない。
 だけど最近夢が出来た。
 百合ちゃんたちと同じ学校に行きたいんだ。
 高校は無理かも知れない。
 不登校の私が受験出来るところは限られている。
 今さら普通の学校に通える自信もない。
 通信制の高校ならいけるかも知れない。
 そこでちゃんと勉強して、いつか同じ大学に行く。
 それなら出来るかも知れない。
 わからない。
 ただの夢。
 でも夢のために頑張ることは正義でも悪でもない。
「待たなーい」
 外に出た。
 うだるような暑さ。
 灼熱。
「うわぁ……、暑いなぁ」
 溢れんばかりの青空。
 眩しくて目がくらむ。
「んもう、待って下さいって、ばー。」
 百合ちゃんたちが追いつく。
 陽の光。
 影法師。
「よし! じゃあ、遊びに行くか! さっそく第二音楽室を探検しに行こう!」
 空は快晴。
 降水確率〇%。
 

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