ゆめゆあ~大嫌いな私の世界戦争~
復讐クラブ「エンジェルトランペット」2
2
翌日。
午後四時。
秘密基地に小雨がぱらぱらと落ちる。
外は少し暗い。
車が走る音がする。
「それで……だよ。みんなとんでもないことになったわけだが、どうしよう」
「知るか」
「ダメですよ。メルくん。ゆゆちゃんだって困ってるんですから、そんな言い方したら」
「わ、私だって知らないよ! こんな事態になるなんて……、想像できるわけないじゃんか」
☆
昨日。
倒れた後、程なくして目を覚ました。
私だけでなく百合ちゃんたちも気を失っていたらしかった。
「もしかしてヤバめのガスか何かだったんじゃないか」
と心配にはなったが、私たちにどうにかできる問題でもない。
すぐに家に帰った。
シャワーを浴びた。
寝る前に録画していた映画を見た。
エクソシストの再放送だ。幽霊物の古典映画で、少女に取り憑いた悪霊と戦う神父の話。ジャンルはホラー。ポルターガイストという言葉を有名にした作品でもある。
午前二時頃、就寝。
そして夜。
寝る前に見た映画が悪かったのか、息苦しい夢にうなされて目を覚ましたらびっくりした。
天井にDVDが浮いていた。
私が集めた映画やアニメのDVDたちが、重力を失ったように宙を漂っていた。
DVDだけではない。
パソコンや本やテレビやイス、洋服や文房具など、ありとあらゆる物が空中に浮いていた。
まさに”ポルターガイスト”だ。
「う、うあ゛ああああああああああ!」
思わず叫んだ。
――ドシャアアアアアアアン
すると、一気に物が落ちてきた。
顔や体に当たって痛い。
いてて。
ていうかお母さん起きてこないかな。
また変なことしてるって思われないかな。
「やばい」
時計を見ると午前三時十分。
同居しているお母さんが目を覚ましてこないか心配だった。
不登校になる前から私は頭がおかしかった。
低学年のころ、雨の日に大きな声を出しながら街を走るのが好きだった。
傘を振りまわしながらかけ声をだして遊んだ。
雨が降ると、世界の終わりみたいでわくわくした。
気分は物語のヒーロー。空想した世界征服を企む悪者と、傘の剣で戦った。
変なことをしているのはわかっていた。
でも、やりたくて、衝動を抑えられなかった。
学校のみんなも、近所の人たちも、お母さんも知っていた。頭がおかしい子だと思われた。お母さんには何度か注意された。
でも、やめられなかった。
大きくなっても、走りだしたくなる衝動は変わらなかった。
だから、時と場所を選ぶようにした。
人気のない朝や夜。
場所は不老川の河川敷とか、誰もいない雑木林の奥とか。
一人で冒険して遊んだ。
「そして……、それから一晩中、物が勝手に浮いては落ちて。なんとか抑えようとして祈りを捧げてみたり、塩を振ってみたりしたんだけどおさまらないし、終いには私も宙に浮いたり海老反りになったりしてさ-、朝まで一睡も出来なかったんだよー」
「そうか。それは大変だったな」
「そんなことがあったんですね。大変でしたねー。怪我はなかったですか?」
「うん。なんとか」
「よかったです」
「まあ、みんなも似たようなものじゃんか」
「そうですね……」
現実離れした事態は、二人にもふりかかっていた
百合ちゃん。
「家に帰ったのが遅くて、最近、ゆゆちゃんたちと会ってるから遅いことがちょくちょく合って、それも含めてお母さんに怒られて……、黙っててください、って言ったんです。うるさかったから。弟がいるんだけど、弟も……、からかってきたから頭にきて、掃除でもしてなさいって言ったんですよ。そしたら……、弟は昨日の夜からさっきまで、ずっと掃除してて……、学校も行かずにですよ。お母さんに何で、そんなことさせたの! って怒ったんだけど一言も話さなくて。それを問い詰めたら百合葉が黙っててって言ったからとか言い始めて……。ほんと、何が起こったのかわかりませんでした」
百合ちゃんは困惑した顔で話した。
次いでメル。
「俺は……、壁が透けて見えるんだよ。俺んち、十階だからさ、床とか壁が透けたらさ、すげえ恐くて……、布団被って目を瞑ったんだけど、そしたら、瞼も透けてきてね……、はは……。終いには、どこからともなく音も聞こえてくるようになってさ、それが、近隣の音だって気づくのも時間はかからなかったけど……、とにかく一睡も出来なかった」
余裕のある口ぶり。
しかし憔悴している様子。
「フフフ……」
「……?」
「ゆゆちゃん?」
私は不敵に笑った。
そして言った。
「私たちは選ばれたんだ!」
「……?」
「急にどうしたんですか?」
「頭おかしくなったか」
「おかしくなんかなってない! 私たちは選ばれたんだよ!」
「……選ばれた?」
「そうじゃんか! だって、これって超能力じゃんか!」
「……!」
「超能力?」
「メルは透視と盗聴の力! 百合ちゃんは心を洗脳する力、そして私は念力(テレキネシス)を手に入れたんだ! 凄いじゃんか! これで興奮しないわけないじゃんか!」
私は念力でメルを宙に浮かせた。
地上一メートルくらい。
メルが浮いている。
「お……、おお?」
「実はね……、昨日、ポルターガイストと格闘した時さ、試行錯誤しているうちに、念力(テレキネシス)が使えるようになったんだ。黙っててごめん。びっくりさせたくて」
昨日の夜。
ポルターガイストをおさめるために四苦八苦した挙句に私が行き着いたのは念じることだった。
イメージの力。
「止まれえええ!」
と心で叫んだ。
そして、得体の知れないパワーを制御している私を想像した。
そしたらポルターガイストは止まった。
そして、それを思うがままにコントロールしている自分に気がついた。
「な、まさか……」
「びっくりするよね。急に。でも事実なんだ。凄いよね。自分でもびっくりしてるんだ」
メルをさらに高いところへ浮かせた。
慌てた表情。
「念力……。ありがちな力じゃんか。アニメとかによく出てくる力。なんか……、感覚的には私にしか見えない手が生えているような感じなんだよね。透明な手が二本あってさ、伸縮自在、変幻自在で、パワーは一〇〇人力みたいな、魔法の手なんだ。今もメルをそれで掴んでる感じなんだ」
「そ、そんなことが」
「まあ、びっくりするよね。でも、この力があればどんなことだって思いのままじゃんか」
メルを地上に降ろした。
動揺した表情。
それもそうだ。
「私たちは超能力を手に入れたんだ」
「そんなまさか……」
「まあ、二人はまだ、制御できてないみたいだけど、練習すれば私みたいに思いのままに使えるようになるよ。私たちは超能力者になったんだよ」
私は宙に浮いた。
見えない手で地面を押すことで端から見たら宙に浮いているように見える。
「……ゆゆちゃん!」
「うおお!」
驚愕の顔。
私は話しを続ける。
「昨日のあのガスさ、きっとヤバいガスだったんだって思うんだ」
私が蹴り飛ばして破裂した缶。
破片が今も散らばっている。
「でもそんなことはこの際、どうでもいいじゃんか」
「……?」
「超能力を獲得した理由なんて、気にすることかな? あのガスが何かの薬品で、遺伝子が変異した? 脳のデッドゾーンが拡張された? そんなこと……、考えたって私たちにはわからないよ。そんなことより、この力を使って何が出来るかを考えようよ」
私は空中を高速移動した。
空を飛ぶような感覚。
私は自由だ。
「す、すげえ」
「ゆゆちゃん……」
「百合ちゃんの洗脳する力。メルの透視と盗聴の力。それに私の念力。これを合わせたら、きっと凄いことが出来る」
音もなく、私は地上に降りる。
圧倒されている二人。
百合ちゃんが口を開く
「あ、頭が追いつかないです。今見たことが現実とは思えないです……。でも……、現実なんですよね」
「そうさ百合ちゃん。私たちは力を手に入れたんだ。でも、百合ちゃんたちはまだ未熟だから練習が必要みたいだけどね。能力は体じゃなくて心で使うんだ。心の強さが、そのまま、力の強さになる」
「なんか中二臭いセリフだな」
「ゆゆちゃん……、オタク気質だから」
「ともかくだ、難しいことを考えるのは後でいいじゃんか。百合ちゃんもメルも、まずは能力の制御を出来るようになろうよ。今のままじゃ夜も安心して眠れないじゃんか」
「まあ、びっくりしたけど、ちょっと落ち着いて考えると、その方が合理的だよな。現に、ゆゆっていう見本がいるわけだし。俺は、その案、賛成だな。言ってることはオタクっぽくて気持ち悪いけど」
「そうですね……。私も……、もし超能力者になってしまったんだとしたら制御できるようにならないと、誰かを傷つけてしまうことになるかもしれません。それは嫌ですね。私もやります。練習」
「決まり、だね」
百合ちゃんは静かに頷いた。
小雨がパラパラと落ちる。
水たまりに反射する夕陽。
春の日に私たちは超能力に目覚めた。
翌日。
午後四時。
秘密基地に小雨がぱらぱらと落ちる。
外は少し暗い。
車が走る音がする。
「それで……だよ。みんなとんでもないことになったわけだが、どうしよう」
「知るか」
「ダメですよ。メルくん。ゆゆちゃんだって困ってるんですから、そんな言い方したら」
「わ、私だって知らないよ! こんな事態になるなんて……、想像できるわけないじゃんか」
☆
昨日。
倒れた後、程なくして目を覚ました。
私だけでなく百合ちゃんたちも気を失っていたらしかった。
「もしかしてヤバめのガスか何かだったんじゃないか」
と心配にはなったが、私たちにどうにかできる問題でもない。
すぐに家に帰った。
シャワーを浴びた。
寝る前に録画していた映画を見た。
エクソシストの再放送だ。幽霊物の古典映画で、少女に取り憑いた悪霊と戦う神父の話。ジャンルはホラー。ポルターガイストという言葉を有名にした作品でもある。
午前二時頃、就寝。
そして夜。
寝る前に見た映画が悪かったのか、息苦しい夢にうなされて目を覚ましたらびっくりした。
天井にDVDが浮いていた。
私が集めた映画やアニメのDVDたちが、重力を失ったように宙を漂っていた。
DVDだけではない。
パソコンや本やテレビやイス、洋服や文房具など、ありとあらゆる物が空中に浮いていた。
まさに”ポルターガイスト”だ。
「う、うあ゛ああああああああああ!」
思わず叫んだ。
――ドシャアアアアアアアン
すると、一気に物が落ちてきた。
顔や体に当たって痛い。
いてて。
ていうかお母さん起きてこないかな。
また変なことしてるって思われないかな。
「やばい」
時計を見ると午前三時十分。
同居しているお母さんが目を覚ましてこないか心配だった。
不登校になる前から私は頭がおかしかった。
低学年のころ、雨の日に大きな声を出しながら街を走るのが好きだった。
傘を振りまわしながらかけ声をだして遊んだ。
雨が降ると、世界の終わりみたいでわくわくした。
気分は物語のヒーロー。空想した世界征服を企む悪者と、傘の剣で戦った。
変なことをしているのはわかっていた。
でも、やりたくて、衝動を抑えられなかった。
学校のみんなも、近所の人たちも、お母さんも知っていた。頭がおかしい子だと思われた。お母さんには何度か注意された。
でも、やめられなかった。
大きくなっても、走りだしたくなる衝動は変わらなかった。
だから、時と場所を選ぶようにした。
人気のない朝や夜。
場所は不老川の河川敷とか、誰もいない雑木林の奥とか。
一人で冒険して遊んだ。
「そして……、それから一晩中、物が勝手に浮いては落ちて。なんとか抑えようとして祈りを捧げてみたり、塩を振ってみたりしたんだけどおさまらないし、終いには私も宙に浮いたり海老反りになったりしてさ-、朝まで一睡も出来なかったんだよー」
「そうか。それは大変だったな」
「そんなことがあったんですね。大変でしたねー。怪我はなかったですか?」
「うん。なんとか」
「よかったです」
「まあ、みんなも似たようなものじゃんか」
「そうですね……」
現実離れした事態は、二人にもふりかかっていた
百合ちゃん。
「家に帰ったのが遅くて、最近、ゆゆちゃんたちと会ってるから遅いことがちょくちょく合って、それも含めてお母さんに怒られて……、黙っててください、って言ったんです。うるさかったから。弟がいるんだけど、弟も……、からかってきたから頭にきて、掃除でもしてなさいって言ったんですよ。そしたら……、弟は昨日の夜からさっきまで、ずっと掃除してて……、学校も行かずにですよ。お母さんに何で、そんなことさせたの! って怒ったんだけど一言も話さなくて。それを問い詰めたら百合葉が黙っててって言ったからとか言い始めて……。ほんと、何が起こったのかわかりませんでした」
百合ちゃんは困惑した顔で話した。
次いでメル。
「俺は……、壁が透けて見えるんだよ。俺んち、十階だからさ、床とか壁が透けたらさ、すげえ恐くて……、布団被って目を瞑ったんだけど、そしたら、瞼も透けてきてね……、はは……。終いには、どこからともなく音も聞こえてくるようになってさ、それが、近隣の音だって気づくのも時間はかからなかったけど……、とにかく一睡も出来なかった」
余裕のある口ぶり。
しかし憔悴している様子。
「フフフ……」
「……?」
「ゆゆちゃん?」
私は不敵に笑った。
そして言った。
「私たちは選ばれたんだ!」
「……?」
「急にどうしたんですか?」
「頭おかしくなったか」
「おかしくなんかなってない! 私たちは選ばれたんだよ!」
「……選ばれた?」
「そうじゃんか! だって、これって超能力じゃんか!」
「……!」
「超能力?」
「メルは透視と盗聴の力! 百合ちゃんは心を洗脳する力、そして私は念力(テレキネシス)を手に入れたんだ! 凄いじゃんか! これで興奮しないわけないじゃんか!」
私は念力でメルを宙に浮かせた。
地上一メートルくらい。
メルが浮いている。
「お……、おお?」
「実はね……、昨日、ポルターガイストと格闘した時さ、試行錯誤しているうちに、念力(テレキネシス)が使えるようになったんだ。黙っててごめん。びっくりさせたくて」
昨日の夜。
ポルターガイストをおさめるために四苦八苦した挙句に私が行き着いたのは念じることだった。
イメージの力。
「止まれえええ!」
と心で叫んだ。
そして、得体の知れないパワーを制御している私を想像した。
そしたらポルターガイストは止まった。
そして、それを思うがままにコントロールしている自分に気がついた。
「な、まさか……」
「びっくりするよね。急に。でも事実なんだ。凄いよね。自分でもびっくりしてるんだ」
メルをさらに高いところへ浮かせた。
慌てた表情。
「念力……。ありがちな力じゃんか。アニメとかによく出てくる力。なんか……、感覚的には私にしか見えない手が生えているような感じなんだよね。透明な手が二本あってさ、伸縮自在、変幻自在で、パワーは一〇〇人力みたいな、魔法の手なんだ。今もメルをそれで掴んでる感じなんだ」
「そ、そんなことが」
「まあ、びっくりするよね。でも、この力があればどんなことだって思いのままじゃんか」
メルを地上に降ろした。
動揺した表情。
それもそうだ。
「私たちは超能力を手に入れたんだ」
「そんなまさか……」
「まあ、二人はまだ、制御できてないみたいだけど、練習すれば私みたいに思いのままに使えるようになるよ。私たちは超能力者になったんだよ」
私は宙に浮いた。
見えない手で地面を押すことで端から見たら宙に浮いているように見える。
「……ゆゆちゃん!」
「うおお!」
驚愕の顔。
私は話しを続ける。
「昨日のあのガスさ、きっとヤバいガスだったんだって思うんだ」
私が蹴り飛ばして破裂した缶。
破片が今も散らばっている。
「でもそんなことはこの際、どうでもいいじゃんか」
「……?」
「超能力を獲得した理由なんて、気にすることかな? あのガスが何かの薬品で、遺伝子が変異した? 脳のデッドゾーンが拡張された? そんなこと……、考えたって私たちにはわからないよ。そんなことより、この力を使って何が出来るかを考えようよ」
私は空中を高速移動した。
空を飛ぶような感覚。
私は自由だ。
「す、すげえ」
「ゆゆちゃん……」
「百合ちゃんの洗脳する力。メルの透視と盗聴の力。それに私の念力。これを合わせたら、きっと凄いことが出来る」
音もなく、私は地上に降りる。
圧倒されている二人。
百合ちゃんが口を開く
「あ、頭が追いつかないです。今見たことが現実とは思えないです……。でも……、現実なんですよね」
「そうさ百合ちゃん。私たちは力を手に入れたんだ。でも、百合ちゃんたちはまだ未熟だから練習が必要みたいだけどね。能力は体じゃなくて心で使うんだ。心の強さが、そのまま、力の強さになる」
「なんか中二臭いセリフだな」
「ゆゆちゃん……、オタク気質だから」
「ともかくだ、難しいことを考えるのは後でいいじゃんか。百合ちゃんもメルも、まずは能力の制御を出来るようになろうよ。今のままじゃ夜も安心して眠れないじゃんか」
「まあ、びっくりしたけど、ちょっと落ち着いて考えると、その方が合理的だよな。現に、ゆゆっていう見本がいるわけだし。俺は、その案、賛成だな。言ってることはオタクっぽくて気持ち悪いけど」
「そうですね……。私も……、もし超能力者になってしまったんだとしたら制御できるようにならないと、誰かを傷つけてしまうことになるかもしれません。それは嫌ですね。私もやります。練習」
「決まり、だね」
百合ちゃんは静かに頷いた。
小雨がパラパラと落ちる。
水たまりに反射する夕陽。
春の日に私たちは超能力に目覚めた。