小悪魔王子に見つかりました
自分の状況をジワジワと実感して、身体が熱くなる。
さっきよりも明らかにグッと近づいた、私と寧衣くんの距離。
こんなに満員の電車なのに、私たちのこの空間だけ別世界だと錯覚しそうになるくらい。
私の視界には今、寧衣くんの身体しかとらえていない。
目線を上げればきっとすぐそこに彼の顔があると思うと、
恥ずかしくてなかなか顔が上げられなくて。
「……浅海さん?」
そんな私の気持ちなんてまるで知らない寧衣くんは、容赦なく私の名前を呼ぶ。
「……っ、」
顔が、上げられない……!
「人酔いとかしてない?大丈夫?」
うっ、ほんとどこまで優しすぎるの。
そんな風に体調を心配してもらいながら返事しないなんて、そんな選択私にはないわけで。
顔に熱が集まっているのをじゅうぶん自覚しながら、ゆっくりと目線を上げて。
「だ、大丈夫。心配してくれてありがとう。寧衣くん」
今の精一杯の気持ちでそう言えば、
「……やば、俺が大丈夫じゃないかも」
なんて口元を押さえて寧衣くんが言ったタイミングで、
私の降りる駅のアナウンスが流れた。