小悪魔王子に見つかりました


『あー、朱耶ね、なんか風邪ひいちゃったみたいで。今日ちょうど彼のお家に行くから、代わりに返しておくよ。ありがとうね!』

私が何かを答える前に、その人は私の手からスッと傘を取り上げて。

ササッとバックヤードへと行ってしまった。

脳内は一気に、彼女と朱耶くんの関係がどういうものなのかっていうことでいっぱいになってしまって。

風邪だって、私が傘を借りてしまったからなんじゃないか、いや絶対そうじゃん。

あとあと寧衣に聞いたら、彼女は朱耶くんのただのバイト仲間で、風邪をひいてた朱耶くんへのバイト仲間からのお見舞いを届けてくれたついでに傘も届けに来てくれただけだって言っていたけど。

それでも、朱耶くんに前に言われたセリフはずっと残ってて。

『寧衣のこと、もらってくれない?』

結局、何も行動を起こせないまま、時間だけが過ぎてしまった。

そして、今。

「……なんども諦めようとしたんだ。いつか新しい恋ができるかなとも思ってたんだけど、全然。きっと不完全燃焼のままだからずっと引きずってるんだと思う」

たくさん話し終えてから、私はアイスティーをストローで吸って飲んだ。
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