イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
2 元教師と元教え子
「久しぶりって……教師だったんじゃないのですか?」
「やっていたよ。でも君が卒業した三年後に教師はやめた」
なんで? だってあんなに人気があったのに……私は除外ですが。
神谷修平。
私が高校三年の時、数学を担当していた。
当時先生は26から27歳ぐらいだったと思う。
授業はとてもわかりやすく、先生のおかげで数学が好きになった生徒も少なくない。
部活ではバスケの顧問。生徒から「カミセン」の愛称でしたわれていた。
でも人気の理由はそれだけではなかった。
綺麗な逆三角形の輪郭にきりりとした眉、彫りの深い目元に口角のあがった唇。
そして清潔感のあるサラサラヘアー。
こんなイケメン教師が学校にいたら女生徒たちが騒がないわけがない。
特に年齢差が7〜8歳なら恋愛相手の条件としてはセーフだ。
特に高校生から見た二十六〜二十七歳は大人の男性で、同学年の男子は幼く見えた。
そんな神谷先生の周りには常に女子たちが群がっていた。
先生は立ち振る舞いもイケメン。男女問わず同じ目線で接していた。
そう、これぞ理想の先生なのだが、私だけは違った。
確かに数学の教え方は1、2年の時の数学の先生と比べたら本当にわかりやすかった。
でも、完璧なイケメンだからこそ私には胡散臭く感じた。
この時の私はとにかく暇さえあれば恋愛漫画を読んでいた。
リアルな男子とまともに話せないぶん、自分が主人公になった様な気分で疑似恋愛をたのしんでいた。
漫画の中の男子は優しくて、ヒロインを第一に考え、尽くしてくれる。
甘いセリフも自分の心にスッと入っていた。でもそれはあくまで漫画だからだ。
現実にはありえないのだ。
だけど神谷先生は漫画から抜け出た様な人だった。
誰からも慕われ、怒ったところなんて見たことがなかった。
そこがまさに胡散臭いのだ。
こんな完璧な先生がこの世の中にいるわけがない。きっと裏の顔があるにちがいないと思っていた。
だから私は神谷先生が好きじゃなかった。
話しかけられても「はい」で押し通した。
会話らしい会話はおそらくなかったと思う。