イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
「親父は典型的なワーカーホリックだったんだ。それは社長に就任しても変わらなくてね」

専務は小さなため息をついた。

「無理がたたって倒れたんだ。しかも一回ならまだしも二回も倒れてね。心配した母が俺になきついて……」

最後まで話さなくとも理由はわかった。
社長を支えて欲しいと専務に言ったのだろう。
それで教師を辞め東栄テックに就職した。

「後悔していませんか？」

こんなことを聞くのはどうかと思ったが、机の上の写真を見たら聞かずにはいられなかった。
だが専務は首横に振り「後悔はしていない」と言って前を向いた。
でも私の目には後悔している様に見えてならなかった。
するとタイミングよくノックと共にドアが開くと、ジュ〜という音が聞こえてきた。

「おまたせいたしました」

そういってスタッフが鉄板テーブルの上に焼けた肉や野菜、エビやイカなどをおいた。
個室は美味しそうな匂いに包まれた。

「ここのヒレ肉は美味しいよ」

綺麗にカットされたヒレ肉を私の皿に乗せる。

「いただきます」

ヒレ肉を口の中に入れるととてもやわらかくてあっという間にお肉がなくなった。
こんな高級な肉初めてかも。

「おいしい」

「だろ？　他にもまだ色々あるからどんどん食べてくれ」

「はい」

美味しいものを目の前にすると人は素直になるのだろうか。
箸が止まらなくなる。
でもどう考えても私ばかりが食べている様な気がする。

「あの……食べないのですか？」

「食べているよ」

いや、食べているのは前菜じゃないの？　とツッコミを入れたくなった。
するとバッグの中のスマホからメールの通知音が連続で鳴った。
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