イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
なんで? それが最初に浮かんだ言葉だった。
秘書って綺麗なお姉さんが会社の偉い人の一歩後ろに下がって色々とスケジュールをいう姿をテレビドラマで見たことがあるが、そんなところになぜ私が?

「何かの間違いでは?」

すると部長が私に人事異動の紙を差し出した。
そこには確かに『秘書室への異動を命ずる』と書いてある。
でも秘書って資格がいるのでは?

「秘書経験のない私で大丈夫なんでしょうか」

「確かに経験者のほうがいいと思うが、どうしても君を秘書に欲しいとの申し出があってね」

え? 私を指名? 頭の中はもう謎でいっぱいだ。
なんでわざわざ経験のない私を秘書に欲しがるの? 新手の嫌がらせとか?
私を邪魔に思った人がわざと秘書課に異動させ、遠回しに会社を辞めさせようとしているのかもしれない。
とにかくこんな無茶な人事があっていいものなの?

「部長は知ってらっしゃるのですか? 私を秘書に欲しいと言った人を」

部長は首を縦にゆっくりと振った。

「誰ですか?」

「3ヶ月前に大きな人事があったのは君も知っているね」

「はい」

通常の人事異動だ。

「アメリカの支社にいた神谷社長のご子息、神谷専務だが面識は?」

今まで自分の部署以外の人事に全く関心がなかった。ましてや役員なんてだれがだれだかわからないのだから面識なんてあるはずがない。
だから「ありません」とキッパリ答えた。
すると部長は眉間にシワを寄せた。

「そうなのか? でもその神谷専務が君を指名したそうだ」

 どう考えても接点などない。
そもそもアメリカにいたことも今聞いたばかり。

「あの……別の鴨居と間違えていませんか? 知り合いに神谷という方はおりません」

「鴨居という名字の社員は君だけだ。それに面識がなかったとはいえもう決まったことだ」
< 3 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop