イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
大きな通りから離れた格式の高そうな店構えだった。
ドラマで見たことはあったが、自分がこんな敷居の高いところに来るなんて思いもしなかった。
ドライバーがドアを開けると専務が先に降り、続いて私が降りた。
門を潜ると、日本庭園があり行燈が店の入り口まで照らしていた。
「あの、緊張するんですけど」
言ってどうにかなるわけではないことぐらいわかっているけど、言わずにはいられない。
どう考えたって私がくるようなところではない。
すると専務が足を止め振り返る。
「言い忘れていたが、君は余計なことは一切話さないで、何に対しても、はいと答えるだけでいいから。わかったね」
「……はい」
言われなくたって返事しかするつもりはない。
それにしても何で私が……。
「神谷様いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
六十代ぐらいの着物の似合う品の良い女性が出迎えてくれた。
きっと女将だろう。
「女将、今日はよろしく頼みます」
「かしこまりました」
「塩原社長は……」
「まだお見えになっておりません。お部屋までご案内いたします」
私たちは竹の間に案内された。