イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
「こんな至近距離でキスできないなんて拷問に近いんだけど」

囁くような甘い声に「フッ」と妙に高い変な声がでてしまった。

「その声は反則。誘ってるよね」

「さ、誘ってません」

「いや、誘ってる」

そういって専務はなんと私の耳を甘噛みした。
専務の息が私の耳をくすぐり、また「フッ」と変な声が勝手に出てしまった。
「もし仕事じゃなかったら押し倒していたところだ」
私を試すような甘い言葉にドキドキしすぎてどうにかなりそうだ。

「でも残念ながら時間がない。だから今日は」

というと耳にチュッとリップ音を響かせキスをした。
ぞくぞくっと身体中に電流が流れるような感覚に襲われる。
専務は私の体を離すと距離を置き、手慣れた手つきでネクタイを結んだ。

「下も履き替えるけど、君には刺激が強いと思うから後ろを向いておいた方がいいよ」

ニヤリと笑いながらベルトに手をかけた。

「は、はい」

慌てて回れ右をし、両手で目を隠す。
後ろではカチャカチャとベルトを外す生々しい音に心臓の音がうるさくなる。


「もういいよ」

「はい」

私はゆっくりと回れ右をした。
するとそこに立っていたのは光沢のあるグレーのスーツに身を包んだ専務だった。
お世辞抜きでかっこいい。
こんな人がパーティーに行ったら注目されるのはまちがいない。
でも専務はパーティーが嫌いなのでは?

「あの……今日のパーティーって」

「おい、汐田からきいてないのか?」

「す、すみません」

「今日は、恩師の定年退職のパーティーだ」

そういえば丸山先生って汐田課長が言っていたような。
するとコンコンとノックと共に扉が開く。汐田課長だ。

「専務、お話はお済みですか? そろそろ」

「わかった」

専務は私の肩をポンと軽く叩く専務室を出た。

「いってらっしゃいませ」

慌てて一礼する。
専務は一度振り向いた。

「行ってくる。それと例の件頼むよ」

「はい」
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