イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
私は返事もせず、急いでベランダに出た。すると、マンションの下で専務が不機嫌そうにこっちを見上げていた。
普段はスーツ姿でビシッと決めているが、今日はカジュアルな紺色のジャケットに白いTシャツ。そしてベージュの七分丈のパンツに白いスニーカーという爽やかな姿。
やっぱりイケメンは何を着ても似合うな。
つい見惚れてしまった。
『おい、何ぼーっとしてるんだ? 時間は刻々と過ぎてるぞ』
「す、すぐ着替えます」
今の言い方、専務が教師だったころ、よく生徒に言っていた言葉だった。
って呑気に思い出している場合じゃない。私は電話を切ると急いで支度をするのだが、慌てている時に限ってもたついてしまう。
こんな時って普段普通にできることも、焦ってしまい、ドツボにハマる。
ワンピースに黒のレギンス。靴は動きやすいようにスニーカーを履き、二分遅れで外に出ると、さっきまでいた専務の姿がない。
もしかして怒って帰った?
「遅い」
声が聞こえて振り向くと、専務が白の高級車の助手席の窓を開けた。
「す、すみません」
「乗って」
「は、はい」
男性の車に乗るなんて初めてで、どこに座ればいいのかわからなくて、とりあえずいつも家族で乗るときのように後部座席に乗ろうとすると「助手席」と言われてしまった。
「は、はい」
緊張しながら車に乗った。
だが、緊張のあまりシートベルトがうまく入らない。
そんな私を見かねて専務が「貸して」と言ってシートベルトをはめてくれた。
何もできないみたいで恥ずかしい。
ところでこれからどこに行くのだろう?
「あの」
「とりあえず今日はデートだ」
「デ、デート……ですか?」