イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
確かに専務の言う通りだ。
私は自分のことなのに心のどこかで専務に言われて渋々従っていたところがあった。そして専務の行動を一歩後ろで見ているような感覚でいた。
でもこれは私の身に降りかかってきたこと。
もし両親に嘘がバレたらせっかく恋人役を引き受けてくれた専務に申し訳ない。
私が本気を出さなきゃ。

「わかりました。お願いします」

「へ〜。今日は一段と素直だね」

「だってここまで協力してくれて本当に感謝してるんです」

正面を向いたまま一礼する。
だが専務の答えは違っていた。

「間違っちゃ困るが俺は、協力しているわけじゃない。自分がそうしたいからやっているだけ。後は君の気持ち次第」

「え?」

「惚れさせるって言ったよね」

あっ、そうだった。

「だから、君もそのつもりでいてくれ。それと、今日と明日は絶対に俺を専務と呼ぶなよ」

「は、はい」

一体今日はどんな1日になるのだろう。

車は高速道路を降りると、山の方へと走っていく。

「一体、どこへ向かってるんですか?」

専務は「面白いところ」というだけでどことは教えてくれなかった。
そして車は山奥へと向かった。山道は緑に覆われているが対向車をほとんど見かけない。
助手席の窓からエメラルドグリーンに輝く大きな川が流れているのが見える。
標識には急カーブに注意とか動物の絵の標識が見えた。

「専務、今狸の標識が——」

「専務じゃないだろ?」

「修平さん?」

「その疑問形もなしね」

「はい」

「場所によっては鹿の標識もあるよ」

すると専務は車の窓を少し開けてくれた。窓から爽やかで少しひんやりとした空気が車の中に入ってきた。
都会ではない自然の空気を美味しいというのはこういうことなのだろう。
気持ちが落ち着くというか、気分がいい。
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