イジワル御曹司は偽のフィアンセ様❤︎
「それでは失礼します」
「今日はありがとう」
父と母に挨拶をして車に乗る。
だけど頭の中は混乱していた。
聞きたいのに、聞くのが怖い。
知りたいのに知るのが怖い。
もし綾の言っていたことが事実なら、どうしたらいいの?
やはり何もなかったことにした方がいいのだろうか。
単なる専務と秘書の関係に戻った方がいいのでは?
でも私は彼を好きになってしまった。
だから昨夜、全てを捧げた。
昨夜のことを思い出すとキュンとしてしまう反面、綾から聞かされた話に胸が苦しなる。
「どうかしたか?」
「え?」
「口数が少ないなと思って」
聞きたい。真実を知りたい。でも聞けない。
「ちょっと疲れちゃって」
専務が私の右手に自分の手を乗せた。
「ごめん、昨夜は無理をさせてしまったね」
それは二人だけの甘く濃密な夜のことだということはわかっている。
本来ならばそれだけでドキドキしてしまうのに……。
下を向いたまま頷くと、専務は私の手をポンポンと優しく触れた。
「今日はゆっくり休んでくれ」
「はい」
正直早くベッドに入って眠りたい。
「それと来週は忙しくて君との時間を作るのは難しいかもしれない」
「わかりました」
「その間、秘書としての仕事をマスターしてくれ」
「はい」
専務に送ってもらった私は、ベッドにダイブするようにうつ伏せになった。
土日の疲れよりも、綾から聞いたことがあまりにもショックで眠たいはずなのに眠れなくなってしまった。