契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「特に若い世代の方がふらりと寄られるケースが増えたように思います。まだ具体的には決めていないけど、いずれはマイホームを考えてるんですっていう感じで、お子様をお連れになって…。やっぱり店舗が明るいと入りやすいみたいですね。夏休みあたりに一度お祭り的なイベントをやってみてもいいかもしれません。おもちゃやお菓子を用意して」

 晴香はそう言って、みんなのデスクの中央に置いてある相談記録簿を久我に差し出した。
 飛び込み、予約に関わらず、新規で相談をした客の簡単な記録だが、改装後は子育て世代の来店が増えているのが一目瞭然だ。
 久我がそれをぺらぺらとめくりながら、満足そうに微笑んだ。

「本当だね」

「北見さんをはじめ、店舗にいつもいる彼女たちが明るく丁寧にお客様を迎えてくれるおかげです。あとはそれをいかに成約に繋げられるかですね。ま、これに関しては営業マンの仕事ですから、お任せ下さい」

 田所が大げさに胸を叩いて見せるのがおかしくて晴香はくすりと笑ってしまう。それをチラリと見てから、

「お願いします」

と、久我が田所に頭を下げた。
 役職としては下にあたる田所に、久我がこのように丁寧に接するのにはわけがある。
 久我が副社長という役職にありながら、田所よりも歳下の二十八歳だからだ。さらにいうと勤続年数もまだ三年経っていない。
 久我は、役職はともかくとして先輩にあたる田所を立てているのだ。
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