契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「…気持ち、落ち着いた?」

 晴香は静かに問いかける。
 孝也が晴香を抱く力はそのままに、

「だいぶマシになった」

と言ってくすりと笑った。
 晴香がホッと息を吐くと、孝也は顔を上げて晴香をジッと見つめた。

「でもまだ足りない」

 そしてどこか期待に満ちた表情で、また晴香をジッと見つめた。
 晴香の中心をいとも簡単にとろけさせる、孝也のその眼差しに、晴香はこくりと喉を鳴らす。躊躇い唇を噛むと、催促をするように孝也がわずかに眉を上げた。
 晴香の頬が熱くなる。
 ドキドキとうるさい胸の音を聞きながら、視線だけで問いかけると、彼は瞬きだけで晴香に応えた。
 晴香はもう一度喉を鳴らして、少しずつゆっくりと孝也に近づく。そして笑みを浮かべた唇に自らの唇をそっと重ねた。
 見た目より柔らかくて熱いその感触に、晴香の脳がピリリと痺れる。その痺れが全身に伝わる前に離れようとするけれど、突如うなじに差し込まれた大きな手に阻まれた。

「あ…、んんっ…!」

 少し怯えて戸惑いの声を漏らした晴香の中に、孝也が易々と入り込む。そんなものじゃ足りないと、いわんばかりに暴れ回る。晴香の中を、アルコールとシトラスの香りで満たしてゆく。

「晴香…」

 荒い息で名前を呼ぶ低い声に、晴香の胸はずきんと痛む。
 彼が作る偽りの愛の世界は晴香をこんなにも夢中にする。彼に溺れて、彼の全てがほしくなる。
 でも本当は愛されていないのだ。
 この疑似恋愛行為に本当の愛は存在しない。
 楽しまなくては。
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