契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
歪んだ真実

孝也の真実

 赤い焼き鳥屋の暖簾を潜ると、店内はほぼ満席でガヤガヤと騒がしかった。らっしゃい!という大将の声を聞きながら、孝也は店内を見渡す。いつもの席に健太郎を見つけた。

「おせーじゃねーか!」

 妻の弟でもある幼なじみは、ニカっと笑って手を上げた。
 夏季休暇も半分過ぎたこの日、孝也と晴香はふたりして地元へ帰ってきた。 
 昼間は孝也の両親と会い、その後北見家を訪れて夕方までの時間を過ごした。
 そして晴香はそのまま実家にいて母親と夜ご飯を食べることになっている。
 もちろん孝也も一緒に食卓を囲んでもよかったのだろうが、久しぶりの母娘水入らずを邪魔するのも気が引けて、孝也は近くのアパートに住む健太郎を呼びだしたのだ。
 孝也から見ても仲がよかった母娘の同居を自分の都合で、突然終わらせてしまったということに、孝也は多少の申し訳なさを感じていた。
 結婚してからは新しい生活に慣れるのが先と晴香は一度も実家に帰っていない。
 それは生真面目な彼女らしい気遣いだと思うけれど、それならば尚更今日はゆっくりとしてほしいと思う。
 自分がしたことと矛盾しているという自覚はあるが、取り壊しまであと数ヶ月と迫ったあの思い出の家で、なるべく多くの時間を過ごしてほしいとも思っていた。
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