契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そしてそれは今も、それほどは変わらない。
 ただ少し、頼み方が変わっただけで。

「それにしてもいったい、どんな手を使ったんだ?」

 健太郎が意味ありげに言って、突き出しの枝豆を口に放り込んだ。

「なんのことだ」

 孝也は眉を上げてとぼけてみせる。そして同じように枝豆を口に放り込んだ。

「しらばっくれるなよ。どうみても姉ちゃんと孝也が付き合ってるようには見えなかった。いやお前はともかく姉ちゃんは…ここ数年そんな気配はまったくなかったし、むしろそういうことから逃げてるようにすら見えたのに」

 さすがは姉思いの弟であり孝也の親友でもある健太郎だ。
 詳しいことはわからなくても孝也が何かを企んでいることくらい見通しというわけか。

「姉ちゃんに部屋を紹介するとか言ってうちの実家に来た夜、ついに告白か!? なんて思ったけど、次の日には結婚だもんな。俺ビックリ仰天だったよ。さては姉ちゃん丸め込まれたなって思ったくらいだ。でもまぁ、姉ちゃんもいい歳だし孝也なら間違いないとも思ったけど」

「俺、お前に気持ちを言ったことあったっけ」

 呑気に見えて意外と鋭い健太郎の読みに、孝也は少し話を逸らす。
 健太郎がまたニヤリと笑った。

「そんなのお前の姉ちゃんに対する態度を見てりゃ誰でもわかるよ。まぁ、お前と姉ちゃんを間近で見てたのは俺くらいだから、俺以外は誰も知らないだろうけど。…でもそういえば、姉ちゃん自身も全然気が付かないみたいだったな」

 孝也はぷっと吹き出して、数日前の晴香とのやり取りを思い出していた。
 男にさりげなくアピールされてれば自分にもわかるはずと言い張っていた晴香はやっぱり弟からみても鈍感なんじゃないかと思い、笑いを噛み殺しながら孝也は口を開いた。
 
「ちょっと鈍感すぎるよな。でも安心してよ。確かにまだ普通の夫婦とは違うかもしれないけど、必ず幸せにしてみせるから」

「…まぁ、姉ちゃんも大人だからな。自分で決めたことだろうし、お前のことも信用してるからその辺は心配してないけど」

 孝也は健太郎の言葉に頷き、ビールを飲む。
 そして自分の中に存在する晴香への気持ちを思い返していた。
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