契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香に対する気持ちが、ひとりっ子である自分の姉弟に対する憧れだけではないと気がついたのは、中学生の頃だった。
 きっかけは当時付き合っていた彼女の一言だったと記憶している。

『孝也君、本当はべつに好きな人がいるんじゃないの?』

 不満そうに言ったその子の顔ももうぼんやりとしか思い出せない。それでもその言葉だけは妙に鮮明に耳に残っている。
 中学生になって初めてできたその彼女とは告白されて付き合いだした。学年でも人気の子で、孝也自身も可愛いと思ったからだ。
 中学生の付き合いだとはいえ、彼女との関係はそれなりに順調だったはず。それなのにある日突然唐突に、彼女は孝也を詰った。

『孝也君ってなんかドライだよね。優しいけど、私にあまり興味ないように思える』

 本音を言えば確かにその彼女を好きで付き合ったわけではない。告白にオーケーしたのはただ純粋に付き合うということに興味があるという中学生らしい理由からだったのだから。でも明るくてクラスの人気者だった彼女には好感を持って、付き合い自体を楽しんでもいたのに。
 理不尽にも思える言葉を突きつけられて当時の孝也はムッとした。
 しかも彼女は、ドライだからという理由だけで他に好きな人がいるんじゃないの?とまで言ったのだ。

『他に好きな人なんかいないよ』

と言い捨て、その足で向かった健太郎の家。
 だがその玄関で孝也は雷に打たれたような衝撃を受けた。

『あ、孝也、いらっしゃい。健太郎ちょっとコンビニに行ってるんだ。入って待ってて』

 キッチン側のドアからひょっこりと顔を出した晴香の姿に、ついさっき言われたばかりの彼女の言葉が重なった。

『他に好きな人がいるんじゃない?』
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