契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 自分は愛しい彼の期待に応えることができなかった。
 彼の顔を見ることができないままに、晴香は声を絞り出す。
 
「た、たか…、こ、ごめ…なさい。わ、わたし…、できない…」

 あなたに愛されないまま、抱かれるのはつらすぎて。

「晴香!」

 大きな腕が晴香を包む。そして泣きじゃくる晴香の頭を、優しく優しく撫で始める。

「謝らないで、晴香。大丈夫、晴香は悪くないんだから…」

 約束を守らなかった晴香を慰めるように、優しく優しく。

「できなくても、いいんだ。晴香、俺はそれでも…」

 苦渋の色を滲ませる孝也の声音があまりにもつらくて、彼の胸に顔を埋めたまま、晴香は首を横に振り続けた。

「でも、でも孝也…!」

「初めに言ったじゃないか! 俺たちは、こんなことではダメにならない。大丈夫、できなくてもそばにいるだけでいいんだから。晴香、泣かないで…」

 愛情で結ばれる結婚は、愛情がなくなれば終わりを迎える。
 この結婚は、初めから愛はないのだからずっと続けられると孝也は言う。
 でも晴香は彼を愛してしまったのだ。愛情がない結婚は、愛情が生まれた時に終わりを迎えるのではないだろうか。
 今はまだ彼はそれに気がついてはいない。
 だとしたら、きっとこの結婚は晴香が愛を告げた時に終わりを迎えるのだろう。
 孝也の腕に抱かれながら晴香はそう確信していた。
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