契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そうだあの時恋愛感情がないと言ったのは晴香だった。そして孝也の方は、それでも結婚しようと言ったのだ。
 そこまで思いを巡らせて、晴香はほとんど無意識のうちに立ち上がる。
 お友達結婚をしたなんて想像もしていなかったであろう美紀が、そんな晴香の様子に目をパチクリとさせた。孝也がずっと好きだった女性が晴香だったかもしれないというのに、喜びもせずに青ざめているのはなぜだろうと思っているに違いなかった。
 一方で健太郎の方はニヤニヤとして、「やっと気がついたか」と言った。
 彼のこの落ち着きようは…、もしかしたら健太郎は晴香と孝也が結婚することになった詳しい経緯を彼から聞いているのかもしない。そしてなぜ孝也があんな結婚を持ちかけたのかも…。
 でもここから先は、孝也から、孝也の口から聞きたいと晴香は思った。

「わ、私…」

 晴香は掠れた声で言った。

「私、孝也のところへ行かなくちゃ」

 そう言った晴香を美紀がびっくりして見上げている。

「え? でもお姉さん、久我君は東京って…」

 美紀の言葉に、晴香はハッとする。そうだ孝也は東京にいる。仕事で、しかも一週間も…。
 今日は水曜日だから、晴香は休みだけれど彼にはそんなことは関係ない、きっと今も精力的に新店舗の候補地をまわっているに違いなかった。
 でも、それでもどうしても、直接会って話したかった。 
 健太郎がニヤリとした。

「姉ちゃん、あいつがどこにいるのか、知ってるんだろう」

 晴香は頷いて鞄を手に取った。

「うん、ちょっと行ってくる! お母さんにはごめんねって言っといて。健太郎、美紀ちゃん、ありがとう!」

 そう言って玄関で靴を履くのももどかしく、晴香は家を飛び出した。
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