契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香は、ゆっくりと目を閉じた。
 もう何度も交わしたとろけるようなこのキスには、本当に弱いと自分でも思う。口の中を丁寧にかき回されると、すぐになにも考えられなくなっていく…。思考がとろとろに溶かされて唇が離れてもすぐにはもとに戻らないのだ。
 晴香はぼんやりとしたまま、自分を優しく見下ろす孝也の眼差しを見つめた。
 瞬きを一回二回している間に、孝也の唇がまた下りてきて、晴香の耳にちゅっちゅっと音を立てる。大きな手が晴香の身体を這い回りはじめて…。
 ようやく晴香はハッとして、声をあげた。

「…た、孝也?! ダ、ダメよ」

「どうして?」

「だって孝也は、明日も仕事なのに…」

 その間も首筋を辿る彼の唇に、身体が熱くなり始めるのを感じながら、晴香は精一杯に身をよじる。
 さっき散々愛されたのにまた反応してしまう自分の身体が恥ずかしくて。
 孝也の声が甘く囁く。

「身体、つらい? もうできない?」

 そうじゃなくて、孝也のことが心配なのだと晴香は思う。明日は休みの晴香とは違って、彼の方はやることが山ほどあるに違いないのに。
 でも直接与えられる耳への刺激に言葉にすることができず、首を小さく振ると、孝也がくすりと笑う気配がした。

「なら、やめない。今夜だけは、俺の好きにさせて。長い間、さんざん待たされたんだ。あんなんじゃ全然足りないよ」

 孝也の吐息がとんでもないことを告げている。でも晴香はもう何も言うことが出来なかった。
 "今夜だけ"なんてきっと嘘だと晴香は思う。自分はこの先ずっと彼のこのお願いにノーとは言えないのだろう。
 ずっとずっと、こんな夜が続いてゆくに違いない。
 そんな幸せな確信をしながら、晴香はゆっくりと目を閉じて、孝也の腕に身を任せた。
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