契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「まさかあの場で言うわけにもいかないでしょうし、それは仕方がないですよ。それにしても北見さん似の彼女が本当に北見さんだったというのは驚きでした」

「田所店長の鋭い読みには、僕の方が驚かされました。さすが港店の店長だと内心で舌を巻いていたんですよ」

 爽やかに孝也が微笑んで、田所を称賛する。田所が嬉しそうに頭を掻いた。

「いやぁ、それほどでも」

 そして首を傾げた。

「それにしても交流会には来られないと聞いていたのに、急遽参加されることになったんですね」

 孝也は少し困ったように微笑んで、頷いた。

「本社の営業マンがひとり参加できなくなったみたいで。予定が空いているのが僕だけだったんです。どうせ奥さんも遅くなるだろうから、ひとりで寂しく家でご飯を食べるくらいなら行ってこいと社長にどやされて」

 そして隣の席の晴香を覗き込んだ。

「驚かせてごめん。怒ってる?」

 みんなの前で突然夫婦の会話をする孝也に晴香はびっくりして、一瞬言葉に詰まる。
 でも何か言わなくてはと思い慌てて口を開いた。

「べ、べつに、怒ってません」

 少し強い口調になってしまった自覚があるが、それは仕方がないだろう。
 孝也がぷっと吹き出して苦笑しながら、

「怒ってるみたいです」

と田所に言った。
 どっとテーブルに笑いが起こる。晴香は真っ赤になってしまった。

「晴香、本当に副社長と幼なじみなのね。今まで話には聞いてたけど、どこかで信じられていなかったの。今こうやって話しているのを見ても不思議な気分だわ」

 目尻の涙を拭きながら言う梨乃に晴香が答えようと口を開きかける。だがそれより先に、孝也がにっこりとして代わりに答えた。

「初恋なんです」

「ちょっ…! 孝也! 変なこと言わないで」
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