契約夫婦の蜜夜事情～エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない～
「でもすっごい偶然ですよね。転職した先に初恋の人がいるなんて」

　若手の営業マンが野菜スティックをかじりながら、目をパチクリとさせて晴香を見る。

「え？」

　晴香は呟いて首を傾げた。

「だってそうじゃないですか。そう小さい街でもないのに転職先で偶然再会なんて、ドラマか小説みたいです」

　どうやら彼は晴香と孝也が孝也の転職を機に再会して、それで結婚することになったのだと勘違いしているようだ。晴香は少し考えながら口を開いた。

「えっと…、再会したわけじゃないの。幼なじみとして連絡はずっと取り合っていて…」

　晴香の言葉に、営業マンが意外そうに「そうなんですか」と呟く。そして、またちょっと検討外れの言葉を口にした。

「じゃあ…副社長がうちの会社に来られたのは偶然じゃないってことですか？　…もしかして、北見さんを追いかけて…？」

「まさか！」

　晴香はちょっと慌ててその言葉を否定する。詳しい経緯を知らない人から見たら、この歳になって幼なじみと結婚なんて不思議に感じるのかもしれないと思いながら。

「そうじゃなくて、転職自体は偶然で…」

　でもそこで、孝也の、

「そうだよ」

という声に遮られて、口を噤んだ。
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