契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 え?
 孝也、今なんて言った?
 晴香は目を丸くして隣の席の孝也を見る。彼は平然として、営業マンにうなずきかけた。

「大正解。さすが、港店の営業マンは有能だね」

 孝也の発言に、テーブルの皆から、えー!と声があがる。晴香は、驚きすぎて声が出なかった。
 孝也の方は、そんな晴香を見てちょっと呆れている。

「なに、晴香。まさか俺がこの会社に来たの、偶然だと思ってたの?」

 晴香はイエスともノーとも答えられない。でも当然、偶然だと思っていた。だって、まさか孝也が晴香を追いかけて、この会社に来たなんて、誰がそんなこと予想できる?
 田所が何かを思い出すように夜空を見上げた。

「そういえば社長、去年の忘年会で自慢してましたよね。副社長は、藤堂不動産にいらっしゃった頃から、すごく有能で人柄もいいから、引き抜きやどこぞの不動産屋の娘婿に欲しいなんて話が降るようにあったって。藤堂不動産でも本社に呼ばれていたのに、それを蹴ってうちにきてくれたって。社長はうちの会社は選ばれたんだなんて喜んでおられたけど…」

 孝也がグラスのビールを飲み干して頷いた。

「『セントラルホーム』はいい会社なのは、晴香から聞いていましたから」

「そんな! 嘘でしょ⁈」

 晴香は隣で声をあげた。
 孝也はそんな晴香をちらりと見てから、田所に向かって話し始める。

「彼女、この会社が好きだからずっと働き続けたいって言ってたんです。でも後継者が決まっていないからちょっと不安だとも言っていて。ちょうどその頃社長からうちに来ないかって話をいただいたから、彼女の不安を、解消してあげられるチャンスだと思って転職することにしたんですよ。晴香の話を抜きにしても『セントラルホーム』がいい会社なのは知っていたし」
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