契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 その孝也とどのように接していくのが正解なのか、当初は晴香も少し悩んだ。
 呼び捨てにして、弟みたいに接している相手が、突然上司になってしまったのだから。
 だが孝也の方は、べつに気にする様子もなく、プライベートは別なんだから今まで通りでいいと言った。
 実際に勤務地が違うのだからそう難しいことでもなかった。
 ごくたまに会社で顔を合わせるときは、素知らぬふりをしていればいいだけで。
 でも今日は、昼に一度会っていて、しかも言葉を交わしているのだ。
 よりによってこんな日に、家にいるなんて。
 そんなことを思い、晴香は少しだけ憂鬱な気分になった。
 その時、コンコンとドアがノックされた。

「誰?」

 問いかけながらドアを開けると、孝也が立っていた。

「お疲れ」

「あ、お、お疲れ様です」

 なんとなく敬語を使ってしまったのは、孝也が昼間と同じスーツ姿のままだったから。
 それに気がついた孝也がくすりと笑った。

「仕事中じゃないんだから」

「そ、それは、そうだけど。なんとなく…」

 だからプライベートで孝也と会うのは嫌なのだ、などと思い晴香はうつむいた。
 そんな晴香をチラリと見てから孝也は部屋を見まわした。

「だいぶ、片付いたね」

 それにつられるように視線を動かしてから晴香は頷いた。

「うん、もうほとんど、いらない物は処分したの」
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