契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香は、半年後にはこの家を出て、一人暮らしをすることになっている。
 実家の取り壊しが決まったからだ。
 健太郎が建てる新しい家は、一階に母が、二階には若い弟夫婦が住む予定だ。
 そこに晴香の居場所はない。

「新しい家の間取りはもうだいたい決まったって、健太郎が言ってたな。この家がなくなるのはちょっと寂しいけど」

 孝也が涼しげな目元を細めて言った。

「孝也が紹介してくれたハウスメーカーさんだから、随分お値打ちに建てられるって健太郎が言ってたよ。お母さんもとっても喜んでた。ありがとう」

 晴香の言葉に、孝也は頭をかいた。

「べつに、俺は紹介しただけだから」

 そんな仕草は小さい頃からあまり変わっていないように思う。
 褒められると喜ぶよりも少し照れる。
 会社でみんなに慕われるあの敏腕副社長と本当に同一人物なのだろうかと、未だに不思議に思うことがあるくらいだった。

「晴香の方は? 住むところは決まったの?」

 晴香はうーんと首を傾げた。

「それがなかなか…。うちの会社は賃貸はやってないから、紹介もないし、休みの日にちょくちょく探してはいるんだけど…」

 将来どの支店に異動になっても通勤に便利な、政令指定都市である市内に住みたいというのが晴香の希望だ。
 でもそうなると、必然的に家賃はそれなりになる。
 もちろん貯金はあるけれど、結婚の予定もない女子の一人暮らしとなれば節約するにこしたことはない。
 でもあまりに安いところはもろもろの不安があるし…。
 とまぁ、そんな感じでお部屋探しは遅々として進まなかった。
 そんな晴香をジッと見つめていた孝也が不意に意外なことを言った。

「実は、晴香に紹介したい物件が一つあるんだ。今日はそこを見せたくて来たんだよ。今から出られない?」

「え、そうなの?」
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