契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 そんな晴香の反応を楽しむように孝也が頭上でくすりと笑う。そして、耳に唇をよせて甘い甘い声で囁いた。

「晴香? 返事は?」

「……す、するっ! するからっ…!」

 たまらずに声をあげて首を振ると、孝也がくすくすと笑いながら、ゆっくりと晴香を解放する。
 そして勝ったというように晴香に言った。

「絶対だよ」

 晴香は真っ赤になって彼を睨んだ。

「そそそそんな風に頼まなくても…、ふふふふわふわにするつもりだったのに」

 孝也が、

「そう?」

と言って眉を上げた。

「でも晴香、前はめんどくさいとか言って固いやつにしてたじゃん。俺ふわふわが好きなのに」

 たしかに当時はそうだった。でも健太郎にしても孝也にしても食べ物はいつも質より量だったから、いちいち卵をふわふわになどしていられなかったのだ。孝也に頼まれても、嫌だの一言で終わらせていた。
 でももう今はどんな形であれ夫婦なのだから、頼まれればちゃんとふわふわにするつもりだったのに。
 なにもこんな風に頼まなくても…!
 すっかり熱くなってしまった耳を押さえて晴香は孝也を睨む。だがそうさせた張本人は、平然として冷蔵庫のサラダを見つけてダイニングに運び始めた。
 やっぱり今まで通りになんてできないかも…。
 晴香は急速に自信をなくして、真っ赤な頬を膨らませたまま、意味もなく卵をガシャガシャかき混ぜた。
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