契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
「晴香、やっぱりこの羊のぬいぐるみ、持って来たんだね…」

 少し呆れたように孝也が言う。

「べ、べつにいいじゃない」

 晴香は口を尖らせた。

「うん、たしかにそれはべつにいいんだけど。でもなんでこれが今ここにあるのさ」

 孝也にじろりと睨まれて晴香は視線を逸らして口を噤んだ。
 夜もふけた新婚夫婦の寝室である。
 もともと孝也が使っていた、夜景を望めるキングサイズのベッドはふたりで使っても十分にゆとりがある。
 そのベッドの上で、お風呂に入りすっかり寝るだけになった孝也と晴香は古びた羊のぬいぐるみを間にして対峙していた。

「なにって…一応、これがきょ、境界線みたいな?」

 晴香の言い分に孝也が大きくため息をついた。
 休みの間に持ってきた晴香の荷物はほとんどが空いていた個室に運び込まれた。その部屋を好きに使っていいと言った孝也は、一方で寝室は一緒にすると言って譲らなかった。

『晴香、俺たち仮面夫婦じゃないんだよ? そんな新婚生活聞いたことがないよ』

 そうなのかな?と晴香は思う。
 でもそういえば、子供ができてからの寝室別制は聞いたことはあるけれど、初めからというのは聞いたことがないような…。
 しかも、孝也のマンションにはふたりで使える大きなベッドがあると彼が母に話してしまったから、晴香はその母の手前、布団を持ってくることが出来なかった。
 そして今、この状態である。

「よくこうやって寝たじゃない。キャンプの時なんかに…」

 そう言って上目遣いに孝也を見ると、彼はもう一度ため息をついて、羊のぬいぐるみをがしっと掴んだ。

「あっ!」

 そしてそれをあっさり退けるとぐいっと晴香を引き寄せる。
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