契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 頬に添えられていた手がゆっくりと移動を始める。そして合図をするように晴香の唇をノックした。
 痺れるようなその刺激に、ほとんど無意識のまま、晴香の口がわずかに開く。
 すかさずそこへ、孝也の唇が覆い被さった。

「んっ…!」

 いきなりの深いキス。
 でもそれをちっとも嫌だと思わないのは、自分の中のあの気持ちが目覚め始めているからだと晴香は思う。突然の侵入者を、両手を広げて歓迎して、シトラスの香りで満たして欲しいと告げている。
 だが一方で、晴香の理性は恐れ慄く。
 これ以上奥へこられたらもう後戻りできそうにない。晴香と孝也の関係は、そんな気持ちは必要ないただのお友達結婚だというのに。
 大きな胸元に手をついて、晴香はもう無理だと合図を送る。だが、それを彼は許してはくれなかった。
 強い力で抱き込んで、動けなくして、晴香の中を縦横無尽に暴れ回る。

「ん…、んんっ…!」

 わずかに漏れる自分の声が、信じられないくらいに艶めいている。孝也の胸元のシャツをぎゅっと掴んで、晴香はようやく確信する。
 今まで通りなんて、絶対に無理だ。
 それは多分、孝也が見せた晴香の知らない彼の一面のせいだけではない。
 晴香自身が、確実に変わり始めている。
 いつのまにか力が抜けて、晴香は孝也の腕に身体を預ける。ゆっくりと頭を撫でられてようやく唇が離れたことに気がついた。
 そんな晴香を見下ろして、孝也が満足そうに微笑んだ。

「うん、大丈夫そうだね。こうやって少しずつ、慣らしていこう」
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