契約夫婦の蜜夜事情~エリート社長はかりそめ妻を独占したくて堪らない~
 晴香はまだ半分は残っている一杯目のカクテルのグラスをくるくると回した。晴香は普段、飲み会でもソフトドリンクにすることが多い。もともとお酒には強くないし、それほど好きでもないからだ。
 それでも今日、アルコールを頼んだのは、この先の話はとても素面ではできそうになかったから。そう…つまり、弟みたいな相手にドキドキしてしまって戸惑っているなんて相談は。
 でもこれを相談できなけれは、梨乃に結婚の話しをした意味がないと晴香は思う。ここ最近晴香をおかしくさせていた原因はまさにそこにあるのだから。
 初めてふたりで過ごしたあの夜、『少しずつ慣らしていこう』と言った孝也は、その言葉の通り順調な滑り出しを見せたふたりの暮らしの中で、ときおり気まぐれにそれを実行した。
 晴香に触れて、キスをする。
 それは少しずつ長く、少しずつ濃厚なものになりつつある。
 晴香はキュッと唇に力を入れて、未だニヤニヤとしたままの梨乃に向かって、口を開いた。

「でも、普通友達同士で"そういうこと"はしないよね? 夫婦の、その…それについてはどう思う? 梨乃なら割り切ってできる?」

 晴香は相談場所にこのバルを選んでよかったと思う。店内はガヤガヤとうるさくて、周りには晴香の話は聞こえない。
 梨乃がちょっとびっくりしたように目をパチパチさせた。

「そりゃ、友達は友達でもやっぱり相手によるんじゃないかな。晴香、もしかして…できなかったの? …嫌だった?」

 梨乃の問いかけに晴香は首を横に振った。
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